土木・環境工学系 News
東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の友部遼助教(都市・環境学コース 主担当)、北海道大学 大学院 農学研究院の中島大賢助教、東京大学 大学院農学生命科学研究科の加藤洋一郎教授、京都大学 大学院農学研究科のSharma Vikas(シャルマ・ビカス)研究員らのグループは、弾性波[用語1]を使うことで、飼料用トウモロコシの茎部ヤング率[用語2]を非破壊的かつ迅速に、高精度で計測する新技術を開発することに成功した。さらに物理数値シミュレーションと、ほ場試験により、新技術で得られたヤング率の妥当性を確認した。
本研究グループは、地震工学に着想を得た超小型センサーアレイを開発し、物理数値シミュレーションと組み合わせることで、トウモロコシ品種の弾性係数のうち、ヤング率をハイスループットに評価する手法を提案した。研究では、トウモロコシ地際部を軽く叩いて発生させた弾性波を、トウモロコシの茎に取り付けたセンサーアレイにより観測し、その波形を解析することで、0.1秒以内に茎部のヤング率を計測した。さらに、トウモロコシ個体全体を揺らす振動試験と、有限要素法に基づく再現シミュレーションを組み合わせて検証した結果、得られたヤング率の妥当性が確認された。
これまでの穀実作物の耐倒伏性系統[用語3]の選抜では、材料試験機を用いた破壊的検査が行われてきた。この従来法では、ほ場から個体単位で茎葉部を刈り出し、茎部断片を作成し、新鮮なうちに曲げ試験により強度を求める必要があるため、トウモロコシの育種への適用は困難であった。
本研究成果により、トウモロコシの茎の弾性係数を推定するための非破壊ハイスループットフェノタイピング[用語4]が可能となったことで、今後、台風や豪雨に際しても倒れにくい飼料用トウモロコシ系統を迅速かつ非破壊的に選抜できると期待される。
研究成果は、オープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」へ3月25日(日本時間)にオンライン掲載された。
新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナ戦争の勃発に伴い、国際的な飼料価格、特に飼料用トウモロコシ価格が高騰しており、我が国でも食料品価格の急激な高騰が社会問題化している。こうした背景から、我が国では近年、国産飼料用トウモロコシの生産に注目が集まっているが、その増産には課題が多く残されている。
課題の一つとして、台風や豪雨によりトウモロコシが倒れ伏す「倒伏」という現象が挙げられる。倒伏は穀実作物に広く発生し、収量と品質を低下させるのみでなく、作業速度の大幅な低下を引き起こす。一方で、飼料用トウモロコシの生産を経済的に成り立たせるためには、大規模かつ効率的な生産を実現する必要があり、そこでは倒伏の発生は回避すべき重要な課題である。
これまでの穀実作物の耐倒伏性系統の選抜では、材料試験機を用いた破壊的検査が行われてきた。この従来法では、ほ場から個体単位で茎葉部を刈り出し、茎部断片を作成して、新鮮なうちに曲げ試験により強度を求める必要がある。しかし、飼料用トウモロコシは開花期には草丈が3 m以上に達するため、従来法によって耐倒伏性系統を選抜することは困難である。そのため、飼料用トウモロコシの倒伏の予測や、耐倒伏性系統の選抜には、植物体、特に茎部の弾性を非破壊的に計測する技術が必要とされてきた。
責任著者の友部助教はこれまでの研究で、植物根と基礎地盤の2次元連成シミュレーション技術を開発し[参考文献1]、2023年1月には、従来の有限要素法を改良して、複雑な形状を有する解析対象を効率的に取り扱える3次元シミュレーション技術であるEbO-FEMの開発に成功した[参考文献2]。
そこで研究グループは、地震工学に着想を得た超小型センサーアレイを開発して、物理数値シミュレーションと組み合わせることで、トウモロコシ品種の弾性係数、特にヤング率をハイスループットに評価する手法を提案した。この手法のほ場試験として、開花期のトウモロコシの株にMEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)センサーアレイを取り付け、茎の下部に軽く打撃することで表面せん断波[用語5]を発生させる衝撃試験を行った(図1A)。その振動データから、トウモロコシでの表面せん断波の伝わり方を測定し(図1B)、そこから試験した6品種ごとのヤング率や、雌穂各部での波速、茎の密度を算出した(図1C-E)。
また、得られたヤング率の妥当性を検証するため、個体全体の固有振動数を求める振動試験を実施するとともに、EbO-FEMによる固有振動シミュレーションを行い、両者を比較した。この結果、得られたヤング率に基づき予測された固有振動数は、振動試験により得られた固有振動数と全ての供試品種でよく一致した。以上により、打撃試験により得られたヤング率の妥当性を数値シミュレーションにより裏付けることに成功した。
またEbO-FEMにより、トウモロコシが風によって振動した際に茎が最も変形するホットスポットが示された。その結果からは、試験した6品種は、基本固有振動モードにおいて、雄穂基部周辺のみが曲がるものと、茎全体がS字に曲がるものに分けられることが示唆された(図2)。
本研究では、トウモロコシの茎の弾性係数を推定するための非破壊ハイスループットフェノタイピング技術を提案し、特定の品種について、茎のどの部分を改良すれば倒伏を防止できるかを可視化することに成功した。これにより、今後、台風や豪雨に際しても倒れにくい飼料用トウモロコシ系統を迅速かつ非破壊に選抜できると期待される。このことは、我が国の食料安全保障の強靭化に貢献するのみならず、世界のトウモロコシの増産に寄与すると期待される。
本研究によって得られた成果は、イネやコムギ、ダイズ等に応用され、台風や豪雨に際しても倒れにくい品種の育成に役立てられると期待される。今後の研究では、一連の研究により開発された物理数値シミュレータを用いた、土木基礎構造物の物理数値シミュレーションの高速化・高精度化を目指している。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(No. 17J02383、20K22599、 21K05537、22K14964)の支援を受けて行われた。
掲載誌 : | Scientific Reports |
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論文タイトル : | Non-destructive high throughput measurement of elastic viscous properties of maize using a novel ultra micro sensor array and numerical validation |
著者 : | Taiken Nakashima , Haruka Tomobe*, Takumi Morigaki, MengfanYang, Hiroto Yamaguchi, Yoichiro Kato, Wei Guo, Vikas Sharma, Harusato Kimura, Hitoshi Morikawa *責任著者 |
DOI : | 10.1038/s41598-023-32130-5 |