土木・環境工学系 News

「土木インフラ維持管理計画の作成支援技術」を開発

道路・鉄道管理者の意図に沿った維持管理計画を容易に作成

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2019.12.11

東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の岩波光保教授と三菱電機株式会社(以下、三菱電機)、鹿児島大学は、道路・鉄道管理者の意図に沿った、土木インフラの長期にわたる維持管理計画が容易に作成できる「土木インフラ維持管理計画の作成支援技術」を開発しました。

本技術は鹿児島県薩摩川内市の協力を得て開発しており、同市が管理する橋梁を対象とした実証を2019年11月から開始しました。本開発成果の詳細は、土木学会建設マネジメント委員会の「第37回建設マネジメント問題に関する研究発表・討論会」で12月2日に発表しました。

図1. 維持管理計画作成支援の概要

図1. 維持管理計画作成支援の概要

開発の特長

1.損傷の種類に着目した「劣化進行モデル」により、インフラごとに最適な補修時期を予測

  • ひび割れやコンクリートの剥離、鉄筋露出などの損傷の種類に着目し、劣化の進行速度を予測する独自の「劣化進行モデル」を考案
  • 健全度が同じ土木インフラから早期に劣化するインフラを見つけ、最適補修時期を予測

2.「劣化・コストモデル」により、予防保全に必要なコストと効果を見える化

  • 損傷の種類と度合いに応じて補修コストを算出する「補修コストモデル」を考案
  • 「劣化進行モデル」を統合した「劣化・コストモデル」により、劣化の進行に応じた補修コストの見積もりが可能
  • 劣化の進行に応じた補修コストをもとに、予防保全に必要なコストと効果を見える化

3.維持管理目的指標を重みづけし、管理者が優先する目的を的確に計画に反映

  • 多様な維持管理目的を指標化し、「劣化・コストモデル」と組み合わせた最適化問題として解くことにより、管理者の多様な維持管理目的を考慮した複数の維持管理計画案を作成
  • 維持管理目的に応じた指標の重みづけにより、優先する目的を的確に反映し、管理者の意図に沿った維持管理計画を作成

今後の展開

今後、鹿児島県薩摩川内市にて橋梁を対象とした実証を進め、モデルの精度向上を図ります。また、開発の対象を他の地域や他の種類のインフラ維持管理にも広げていく予定です。

開発体制

名称 担当内容
三菱電機 計画作成支援機能の全体設計、システム化、最適化アルゴリズム開発、実証とりまとめ
東京工業大学 計画作成支援機能の全体設計、補修コストのモデル化および、劣化進行モデルとの統合
鹿児島大学 計画作成支援機能の全体設計、インフラ点検データの解析、劣化進行のモデル化

開発の背景

近年、高度経済成長期に建設された国内の多くの土木インフラが一斉に老朽化し、更新時期を迎えています。2014年には国土交通省が自治体や道路会社に対して、橋梁やトンネルなどの5年に1回の目視による定期点検を義務付け、壊れてから補修する事後保全から、壊れる前にこまめに補修する予防保全への転換を推進しています。

予防保全には長期にわたる維持管理計画の作成が必要ですが、管理対象となる土木インフラの数は膨大で、現在のような人手による適切な計画の作成は容易ではありません。

例えば、道路橋の健全度は点検結果により4段階に区分されており、同一の健全度と診断されるインフラが多数存在するため、適切な補修順位の設定は困難です。さらに、予算の制約に加え、災害時の避難経路の確保や落下物による第三者被害の防止など、インフラの維持管理目的も多岐にわたるため、維持管理計画に管理者の複数の意図を的確に反映することも困難です。

今回、橋梁を対象として、劣化進行のモデル化と多様な維持管理目的の指標化を行い、最適化問題として解くことで、維持管理目的指標の重みづけに応じた補修時期や補修コストを算出し、維持管理計画案として提示できる技術を開発しました。また、さまざまな視点で指標の重みづけを変更できるようにしたため、管理者の意図に沿った計画が作成できるようになりました。

特長の詳細

1.損傷の種類に着目した「劣化進行モデル」により、インフラごとに最適な補修時期を予測

今回、鹿児島県薩摩川内市が管理する538本のコンクリート橋の橋梁データと点検結果を解析し、コンクリート橋の劣化進行に大きく影響する、ひび割れとコンクリートの剥離、鉄筋露出といった損傷に着目し、劣化の進行速度を予測する独自の「劣化進行モデル」を考案しました。

例えば定期点検の結果、現在は健全度が同じと診断されれば、劣化進行の速度も同じであると仮定して補修時期を推定していますが、実際にはその後の劣化進行速度が異なる場合もあります。今回、「劣化進行モデル」により、現在の健全度だけではわからなかった早期に劣化する土木インフラを見つけられるようになり、個々のインフラに応じた適切な補修時期を予測できます(図2)。

図2. 劣化進行モデルからの補修時期の予測

図2. 劣化進行モデルからの補修時期の予測

2.「劣化・コストモデル」により、予防保全に必要なコストと効果を見える化

ひび割れの深さやコンクリートの剥落面積など、損傷の種類と度合いによって補修工法が異なり、それに応じて補修コストも変化します。今回、損傷の種類と度合いに応じて補修コストを算出する「補修コストモデル」を作成し、「劣化進行モデル」と組み合わせた「劣化・コストモデル」により、劣化進行に対応した補修コストの見積もりが可能になりました(図3)。補修時期に達した時点での補修コストを一律に決定するのではなく、補修時期に達する前後の時期でも、劣化の進行度合に対応した補修コストがわかるため、劣化が深刻になる前に補修して寿命を延ばす予防保全に必要なコストと効果を見える化できます。

図3. 劣化進行に対応した補修コストがわかる劣化・コストモデル

図3. 劣化進行に対応した補修コストがわかる劣化・コストモデル

3.維持管理目的指標を重みづけし、管理者が優先する目的を的確に計画に反映

管理者は、「災害時の避難経路確保を最優先にしたい」「コンクリート片落下による第三者被害を防ぎたい」など、インフラに対するさまざまな維持管理目的を持っています。これらの目的を、要補修レベルや、落下物の第三者被害による経済損失などの指標に変換し、「劣化・コストモデル」と合わせて定式化することで、最適化問題として解くことが可能になりました。

これにより、例えば、比較のために複数の予算案を作成するなど、人が考えるよりはるかに多種多様な案を容易に作成できます。また、膨大な数のインフラの劣化進行や補修時期、補修コストを算出し、管理者の多様な維持管理目的を考慮した、複数の維持管理計画案を容易に作成・提示できるため、計画案に対する多面的な評価も可能になります。さらに要補修レベルの引き上げなど、指標の重みづけを変えることができるため、管理者が優先する目的を的確に反映し、管理者の意図に沿った維持管理計画を作成できます。

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