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異種のドーパミン受容体が結合したD1-D2ヘテロ多量体の活性化によってインスリン分泌が調節される

糖尿病治療に向け、新たな発見

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2022.06.24

D1-D2ヘテロ多量体によるβ細胞の機能調節機構

D1-D2ヘテロ多量体によるβ細胞の機能調節機構

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の上船史弥大学院生(博士後期課程3年)、坂野大介助教、粂昭苑教授らの研究グループは、同 情報理工学院 情報工学系の青西亨准教授、同 科学技術創成研究院の北口哲也准教授、神戸大学 医学研究科の清野進特命教授、高橋晴美特命准教授との共同研究により、血糖値を下げるインスリン[用語1]を分泌する膵臓β細胞[用語2]の働きが、2種の異なるドーパミン受容体[用語3]であるD1受容体とD2受容体が結合したD1-D2ヘテロ多量体[用語4]によって抑制、調節されることを明らかにした。

高血糖状態が慢性化し、過剰なインスリンの産生・分泌が続くと、分泌を担うβ細胞は疲弊して分泌障害や細胞死を起こすため、インスリン分泌の適切な調節は必須である。この調節を担う物質の1つがβ細胞にある細胞内小胞内でインスリンとともに貯蔵されているドーパミン[用語5]で、インスリン分泌時に同時に細胞外へ放出され、β細胞の表面にあるドーパミン受容体を介してβ細胞に作用し、インスリン分泌を抑制する。本研究では全反射照明蛍光顕微鏡(TIRFM)[用語6]による観察などを行い、複数あるドーパミン受容体のうちD2受容体に結合したドーパミンはインスリン分泌を抑制する一方で、シグナルが過剰に働くとβ細胞の機能不全と細胞死を招くことを明らかにした。また、D1受容体とD2受容体が結合したD1-D2ヘテロ多量体を活性化することでインスリン分泌が一時的に抑制されること、さらにこのD1-D2ヘテロ多量体の形成がD2受容体の過剰な働きによる細胞死からβ細胞を保護することも解明した。

β細胞がインスリン分泌能を維持し続けるための機構の一部を明らかにした本研究は、糖尿病に対する創薬研究や再生医療に役立つことが期待される。研究成果はアメリカ糖尿病学会誌「Diabetes」に6月22日付けでオンライン掲載された。

用語説明

[用語1] インスリン : 膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあるβ細胞において合成・分泌されるペプチドホルモンの一種。食後、単糖類の1つであるグルコースの血液中の量が増えることで分泌される。肝臓、脂肪細胞、骨格筋などに作用し、グルコースの取り込みを促進させ、血糖値を下げる働きをする。

[用語2] 膵臓β細胞 : 膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあって、インスリンの合成と分泌を行う細胞。単にβ細胞とも言う。ヒトでは膵島の細胞の50〜70%を占める。糖尿病になるとこのβ細胞の細胞量や機能が低下し、インスリン分泌不全や慢性的な高血糖が引き起こされる。

[用語3] ドーパミン受容体 : Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の一種。ドーパミンと結合することで活性化し、信号が伝達される。現在5つのドーパミン受容体が知られており、興奮性のD1様受容体(D1受容体、D5受容体)と抑制性のD2様受容体(D2受容体、D3受容体、D4受容体)に大別されるが、興奮性作用と抑制性作用については実際にはそう単純なものではないとされている。

[用語4] 多量体 : 構成単位となる低分子化合物(単量体)が複数、化学的に結合して構成される分子量の大きい物質。ホモ多量体は同種の化合物が結合したもので、ヘテロ多量体は異なる種類の化合物が結合したもの。

[用語5] ドーパミン : 生体内で合成されるアドレナリン、ノルアドレナリンの前駆物質。神経の細胞間で信号を伝えるために使われる神経伝達物質としても働き、ドーパミンD1受容体(D1受容体)、ドーパミンD2受容体(D2受容体)といったそれぞれに異なる機能を持つ受容体と結合して作用する。

[用語6] 全反射照明蛍光顕微鏡(Total Internal Reflection Fluorescence Microscopy/TIRFM) : カバーガラス上で励起光を全反射させることで、細胞膜近傍の現象を可視化する顕微鏡。励起光をこの条件で照射すると、境界面にエバネッセント光が生じる。この光は厚さ数百ナノメートルの範囲のみに沁み出すので、細胞膜近傍の数百ナノメートルの範囲だけが励起され、これによってインスリン分泌のような膜近傍で生じる現象を高解像で観察することが可能となる。

    

詳しくは、下記東工大ニュースをご覧ください。

    
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