情報工学系 News
情報・数理科学の応用によるNMR法の革新
本研究成果は、タンパク質の機能に関する基礎研究に貢献し、タンパク質と医薬品候補分子の結合状態の解析に基づく創薬研究を加速させると期待できます。 NMR法は、強い磁場中に置かれた原子核から発せられる信号(NMR信号)を観測し、分子の構造を解析する手法です。タンパク質の解析では、NMR法で観測可能な安定同位体[用語2]で標識した試料を用いることが標準的です。
今回共同研究グループは、先行研究で開発した「符号化標識法[用語3]」と数理科学の応用により、重なり合う複数のNMR信号からでも、アミノ酸の情報とタンパク質の性質の情報を取得することに成功しました。
本研究は、科学雑誌『Journal of Biomolecular NMR』のオンライン版(1月30日付)に掲載されました。
※ 共同研究グループ
理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チーム
研究員 葛西卓磨(かさい たくま)(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)
チームリーダー 木川隆則(きがわ たかのり)(東京工業大学 情報理工学院 特定教授)
東京工業大学 情報理工学院 情報工学系
准教授 小野峻佑(おの しゅんすけ)(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
機構長 山本雅之(やまもと まさゆき)(東北大学 大学院医学系研究科 教授)
教授 小柴生造(こしば せいぞう)
京都大学大学院 情報学研究科
教授 田中利幸(たなか としゆき)
統計数理研究所
教授 池田思朗(いけだ しろう)
用語説明
[用語1] 核磁気共鳴(NMR)法、NMR信号 : 強い磁場中に置かれた原子核に電磁波を照射すると、核スピンの共鳴現象により、原子核の性質や周囲の環境に応じた周波数(共鳴周波数)の電磁波の吸収や放出が起こるが、その電磁波をNMR信号として捉えることで、物質の分子構造の解析や物性の解析を行う手法。分子の相互作用などの情報も得られるため、生命科学、医薬、化学、食品、材料物性といった幅広い分野で利用されている。NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。
[用語2] 安定同位体 : 原子番号が同じで質量の異なる同位体のうち、放射性崩壊を起こさず安定に存在するもの。タンパク質の主要な構成元素は水素、炭素、窒素であるが、それぞれ自然界では水素-1(1H)、炭素-12(12C)、窒素-14(14N)がほとんどを占めている。このうち、1HはNMR法で観測可能だが、12C、14Nは観測不能か困難である。そのため、物理化学的性質がほとんど変わらない安定同位体でありNMR観測が可能な13C、15Nに置き換えたタンパク質試料を用いることが標準的な方法となっている。安定同位体に置き換えることでNMR観測が可能になることから、興味のある原子を観測するための標識としても利用できる。
[用語3] 符号化標識法 : 葛西卓磨研究員らが2015年に発表したタンパク質の標識方法。少ない種類の標識体で20種類全てのアミノ酸を判別することを目指した。SiCode(Stable isotope encoding)法ともいう。
詳しくは、下記東工大ニュースをご覧ください。