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紐状構造のもつれによるDNA凝集体の形成に成功

新しいソフトマテリアルとして、薬物送達システム等への応用に期待

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2025.08.15

東京科学大学 情報理工学院 情報工学系の瀧ノ上正浩教授、生命理工学院 生命理工学系のChai Hong Xuan大学院生(博士後期課程3年)、中央大学理工学部精密機械工学科の鈴木宏明教授、萱沼寛太大学院生(修士課程2年)らの研究グループは、細胞内部で液–液相分離 [用語1] による流動性の高い液滴の形成を可能とする異方性DNA凝縮体の開発に成功しました。


細胞内部では生体分子が液–液相分離により流動性の高い液滴を形成します。今回開発した新たなDNAの凝縮体も、そうした液–液相分離を起こす生体分子の一つです。


これまで合成生物学の分野では、液–液相分離を起こす生体分子として、DNAの応用が検討されてきました。DNAは、塩基配列によって設計が自在に可能な汎用性の高いモジュールであり、このDNAナノ構造体(モチーフ)を用いたDNA凝縮体の構築と機能化が進められてきました。しかし、モチーフの違いによる構造的影響は十分に解明されておらず、特に紐状の連結構造を示すような異方的モチーフを用いた研究はほとんど行われていませんでした。


私たちは、直交 [用語2] する粘着末端 [用語3] を利用して一方向にモチーフを連結することで、異方的DNAナノ構造を構築しました。DNA凝縮体の構築にしばしば使われる柔軟性を持つX字型モチーフ(Xモチーフ [用語4] )と、異方性を持つ硬い四面体モチーフの2種をつくり、それらを比較したところ、四面体モチーフでDNA凝縮体の形成が確認されました。これは高剛性の四面体モチーフからなる紐状の構造のもつれによって形成されたと考えられます。


さらに、本材料の応用可能性を探るため、外部刺激による制御を試みました。光分解性スペーサー [用語5] をリンカーに導入することでUV照射による凝縮体の解体と、細胞透過性DNAナノ構造体の放出を実証し、制御可能な薬物送達キャリアとしての特性を示しました。また、温度刺激にも応答することを確認しました。


この異方性四面体DNA凝縮体は、新しいソフトマテリアルとして、バイオ医工学や人工細胞システムなど幅広い分野への応用が期待されます。今後さらなる研究開発を進めることで、分子デバイスや治療用デリバリーシステム、機能性人工オルガネラの設計に貢献する可能性があります。


本研究成果は、2025年6月10日(米国東部時間)に米国化学会(American Chemical Society)刊行の科学雑誌「JACS Au」のオンライン版で公開された。


用語説明

[用語1] 液–液相分離:溶液中の高分子や分子群が互いに相互作用しあうことで、溶液が混和しやすい相と混和しにくい相に分かれ、流動性をもった液滴状の集合体を形成する現象を指します。

[用語2] 直交:互いに干渉せず独立して機能する配列や相互作用を指します。直交粘着末端は、それぞれ特定の相補配列とだけ相互作用し、他の配列とは結合しないように設計されています。

[用語3] 粘着末端:二本鎖DNAの末端に生じた一本鎖の突出部分で、相補的な配列と結合しやすい構造です。

[用語4] Xモチーフ:X字型に分岐した4本のアームを持ち、それぞれに粘着末端を備えた柔軟なDNAナノ構造体です。

[用語5] 光分解性スペーサー:DNA鎖中に組み込まれ、光(主にUV)照射によって切断される化学的リンカーです。


詳しくは、下記 Science Tokyo ニュースをご覧ください。

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