化学系 News
安価な金属だけで人工光合成実現、地球温暖化対策へ期待
東京工業大学 理学院 化学系の竹田浩之特任助教、加美山紘子大学院生(当時)、関根あき子助教、石谷治教授らは、産業技術総合研究所の小池和英主任研究員らと共同で、銅錯体とマンガン錯体から成る光触媒[用語1]に可視光を照射すると二酸化炭素(CO2)が、一酸化炭素(CO)[用語2]やギ酸(HCOOH)[用語3]に効率良く還元されることを発見した。この効率と耐久性(量子収率 [用語4]57%、ターンオーバー数[用語5]1,300回以上)は、これまで知られていた、ありふれた金属すなわち卑金属[用語6]を用いた光触媒の性能を大きく凌ぎ、ルテニウムやレニウムといった貴金属[用語7]や稀少金属を用いた高効率金属錯体[用語8]と同等もしくはそれ以上であった。
現在、地球温暖化対策として、温室効果ガスであるCO2を還元資源化する技術が求められている。これまで高効率CO2還元光触媒には、貴金属や稀少金属が用いられていたため、光触媒を使ったCO2の大規模な還元による資源化の足かせとなっていた。今回、従来の高効率光触媒と比較して勝るとも劣らない特性を持った新たな光触媒系を銅とマンガンの錯体だけで作製することに成功した。地球温暖化対策としての人工光合成システムの大規模化への道を拓くことができた。
研究成果は2018年11月27日(現地時間) 、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
なお本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)における研究課題「太陽光の化学エネルギーへの変換を可能にする分子技術の確立」(課題番号:JPMJCR13L1、研究代表者:石谷治)の一環として行われた。
用語説明
[用語1] 光触媒 : 光を吸収することで、反応を触媒的に進行させる分子もしくは物質のこと。
[用語2] 一酸化炭素(CO) : フィッシャー・トロプシュ反応などにより炭化水素を合成できるため、工業的に有用な炭素資源として注目を集める。
[用語3] ギ酸(HCOOH) : 繊維加工や皮革加工、化学工業原料として用いられる。ギ酸は液体で、分解することで水素が定量に得られるため、運搬が容易な水素前駆体としても注目されている。
[用語4] 量子収率 : 照射した光の量(光子数)に対する反応生成物の分子数の割合。例えば、100個の光子を照射することで、生成物分子が50個生成した場合、量子収率は50%となる。
[用語5] ターンオーバー数 : 当該反応において、触媒が何回機能したかを表す指標。触媒100個を用い、生成物が10,000個得られた場合、ターンオーバー数は100となる。
[用語6] 卑金属 : 地球に多量に存在する金属。
[用語7] 貴金属 : 8種の高価な金属、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)。地球上での存在量が少ない。
[用語8] 金属錯体 : 金属イオンと配位子からなる分子もしくはイオン化合物。