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住宅の実質エネルギー消費ゼロを実現する太陽光パネルと蓄電池の投資最適化手法

カーボンニュートラル実現に向けた文理共創研究

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2024.07.19

要点

  • ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)達成を保証する太陽光パネルと蓄電池の投資最適化手法を開発。
  • 蓄電池の地域共有と適切な電力価格設定で、ZEH達成と費用削減の同時実現が可能であることを実証。
  • 本手法を適用した太陽光パネル・蓄電池投資シミュレータ開発による社会実装に期待。

概要

東京工業大学 工学院 システム制御系の畑中健志教授(システム制御コース 主担当)、早稲田大学 理工学術院の和佐泰明准教授、富山大学 学術研究部工学系の平田研二教授らの研究チームは、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)[用語1]実現を保証する太陽光パネルと蓄電池に対する投資最適化手法を開発した。

家庭部門の省エネルギー化にはZEH実現が不可欠であるが、住民の視点からの設備普及促進策に課題が残されており、特に、太陽光発電システムや蓄電池システムの適切な設備投資量は十分に検討されてこなかった。

本研究ではそうした課題の解決を目指して、経済性とZEH達成を両立する、太陽光パネルと蓄電池に対する投資制約付き非線形最適化問題を定式化した。また、地域全体の大規模なエネルギー問題でも容易に求解できる線形最適化問題に帰着することに成功し、共有経済(シェアリングエコノミー)[用語2]の概念に基づく地域共有蓄電池の最適化も可能となった。

この手法について、福岡県北九州市城野地区の電力データを用いた試算を行った。その結果、蓄電池共有と適切な電力価格設定によって約40%の経済的費用削減の可能性を実証し、地域レベルでのZEHを達成できることを示した。本研究で提案する手法により、住宅の電力消費におけるCO2排出量を削減し、カーボンニュートラルへの世界的な取り組みに貢献できると期待される。

本研究成果は、東京工業大学 工学院 システム制御系の畑中健志教授、田中大地大学院生、大阪大学 大学院基礎工学研究科の A. Daniel Carnerero(ダニエル・カルネレロ)助教、広島大学 大学院先進理工系科学研究科の Mengmou Li(メンモ・リ)准教授、早稲田大学 理工学術院の和佐泰明准教授、富山大学 学術研究部工学系の平田研二教授、北九州市立大学 経済学部の牛房義明教授、京都大学 大学院経済学研究科の依田高典教授による文理共創研究の成果であり、6月6日付の「IEEE Access」に掲載された。

背景

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)への移行促進は、家庭部門の省エネルギー化を可能とし、カーボンニュートラル実現に向けて重要な役割を果たすことが期待されている。ZEHを実現する上では、住宅用太陽光発電システムや蓄電池システムの利活用は不可欠であるが、前提となるそれらの適切な設備投資量についてはこれまで十分に検討されていなかった。

課題は工学面と経済面の両方に存在する。工学的課題としては、太陽光パネル面積を増やすと、再生可能エネルギー由来の平均発電量は増加するが、天候や日照時間に依存して発電量が不安定になりやすいことが挙げられる。住宅における安定した電力供給を保証するためには、太陽光発電量の過不足分を吸収する蓄電池の適切な導入が求められる。他方、経済的課題としては、太陽光パネル面積や蓄電池の設備投資量が増加すると、購入する住民の経済的負担となり、ZEH移行促進の大きな障壁となっていることがある。

研究成果

本研究チームは、経済性とZEH達成を両立する、太陽光パネルおよび蓄電池に対する投資最適化手法を開発した。提案手法は、経験値に基づく現行の投資手法とは異なり、データに基づく系統的手法であるため、電力の過不足を低減する設備投資を実現することが可能となる。この場合に考えるべき問題は、一般には制約付き非線形最適化問題となるため、最適解の導出に多大な計算時間を要し、地域全体を考慮する大規模問題には直接利用することが困難であった。そこで、その課題解決のために、蓄電池の充電量推移に関する非凸制約の変換手法を考案し、簡単に計算が可能な線形最適化問題に帰着することに成功した。特に、共有経済(シェアリングエコノミー)の概念に基づく地域共有蓄電池の最適化も可能となった。

本研究で開発した手法の効果を検証するため、福岡県北九州市城野地区の実際の住宅群電力データを用いて投資量の試算を行った(図1)。まず、適切な電力価格設定によって設備投資を行うと、住宅の電力に関わる経済的費用が平均約35%削減される可能性が実証された。また、開発した最適化手法で得られる投資量では、再生可能エネルギー由来の発電量が消費電力量を上回るという、ZEH条件を達成できた。さらに、地域での蓄電池共有に基づく設備投資では、経済的費用が約40%削減され、少ない太陽光パネル面積で地域レベルのZEH実現が可能であることが示された。

図1. 住宅群電力データを活用した、開発した投資最適化手法の効果検証結果。 左図は、導出した各住宅の太陽光パネル(上)および蓄電池(下)に対する最適投資量のヒストグラムおよび地域内平均投資量(点線)。ヒストグラムのうち、青は各住宅が個別に蓄電池を導入するモデルにおける投資量、赤は個別導入時におけるZEH条件を陽に考慮したモデルにおける投資量を示し、それら投資量平均を点線で表している。また、緑および黄点線は、地域共有蓄電池を導入するモデルにおける一軒当たりの面積および容量を表す。 右図は、設備非導入時と比較した各住宅の経済的費用削減率。赤が個別導入時、青が個別導入時におけるZEH条件を考慮した場合の削減率を表す。

  1. 図1.住宅群電力データを活用した、開発した投資最適化手法の効果検証結果。 左図は、導出した各住宅の太陽光パネル(上)および蓄電池(下)に対する最適投資量のヒストグラムおよび地域内平均投資量(点線)。ヒストグラムのうち、青は各住宅が個別に蓄電池を導入するモデルにおける投資量、赤は個別導入時におけるZEH条件を陽に考慮したモデルにおける投資量を示し、それら投資量平均を点線で表している。また、緑および黄点線は、地域共有蓄電池を導入するモデルにおける一軒当たりの面積および容量を表す。 右図は、設備非導入時と比較した各住宅の経済的費用削減率。赤が個別導入時、青が個別導入時におけるZEH条件を考慮した場合の削減率を表す。

社会的インパクト

本研究では、ZEH実現に向けた投資最適化手法を提案し、住宅の実電力データに基づいて検証した。その結果、蓄電池共有と適切な電力価格の設定を実施すれば住宅のネット・ゼロ・エネルギーを達成可能であり、それが経済的にも実現可能な目標となりうることを示した。こうした成果は、家庭部門の省エネルギー化に対する住民の視点での設備普及促進策につながるものであり、それを通じて、電力分野における経済性を考慮したカーボンニュートラル実現や、持続可能な社会を目指した今後の発展に貢献できる。

また今回の成果は、工学と経済学という異分野の知見を融合した文理共創研究を通して社会的課題の解決を図る取り組みから得られたものである。今回、こうした取り組みの有効性が示されたことは、学術界に与えるインパクトも大きく、同様の文理共創研究がさらに広がる契機になることが期待される。

今後の展開

今後は、今回開発した最適化手法を用いた、太陽光パネルおよび蓄電池の投資シミュレータを開発し、ZEHへの円滑な移行促進に向けた住民の判断材料として活用する形で、成果の社会実装を目指す。

  • 付記

この研究は、環境省事業「ナッジ×デジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業」における業務「カーボン・ニュートラルの実現に向けたネット・ゼロ・エネルギー・ハウスへの移行促進と社会実装」に基づくものである。加えて本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業基盤研究B(22H01513)の支援を受けて行われた。

  • 用語説明

[用語1] ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス) : net-Zero Energy Houseの略称。高断熱化した外皮と高効率な省エネルギー設備を備え、再生可能エネルギー等を利用することで、年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスにする住宅を指す。

[用語2] 共有経済(シェアリングエコノミー) : 個人・組織・団体などが、保有する何らかの有形・無形の資源(モノ、場所、技能、資金など)の売買、貸し出し、利用者との共有(シェア)を行う経済モデルのこと。

  • 論文情報
掲載誌 : IEEE Access
論文タイトル : Net-Zero Energy House-oriented Linear Programming for the Sizing Problem of Photovoltaic Panels and Batteries
著者 : A. Daniel Carnerero, Taichi Tanaka, Mengmou Li, Takeshi Hatanaka, Yasuaki Wasa, Kenji Hirata, Yoshiaki Ushifusa, Takanori Ida
DOI : 10.1109/ACCESS.2024.3410369別窓
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