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鉄ニクタイド、鉄カルコゲナイド層を電気伝導層に持つ、いわゆる鉄系超伝導体は、銅酸化物超伝導体に次ぐ高い転移温度Tcを示すことや、通常磁性を連想させるFe原子が超伝導の中心を担うことといった特異性から、その物性研究が広く進展してきた。その中でも最も単純な結晶構造を持つFeSe(セレン化鉄)は、バルクでのTcは約9 Kと比較的低いものの、SrTiO3(001)基板上に1ユニットセル分の厚さしかない単層膜にすると、そのTcが40 K~65 Kへと格段に上昇することから、高温超伝導への新たな道筋を示す物質として注目されている。しかし高いTcを得るための本質的な条件は未だ明らかになっていない。
我々は、イオン液体をゲート物質として用いた電界効果トランジスタ(いわゆる電気二重層トランジスタ)をFeSe薄膜上に作製し、このデバイス構造が有する「静電的キャリアドープ」と「電気化学的エッチング」といった2つの機能を組み合わせた、電気化学的アプローチを用いてこの問題に取り組んだ[1]。FeSeにおける超伝導転移現象の基板材料、膜厚、および電場(キャリアドープ)依存性を系統的に調べた結果、SrTiO3基板と1ユニットセル厚さといった従来から知られるものに限らないFeSeの高温超伝導発現のための新たな条件を見出すことに成功した。セミナーでは電気二重層トランジスタを用いた超伝導の制御手法とこれから得られるFeSeの超伝導機構に対する知見について紹介したい。
更新日:2016.11.14