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遍歴磁性体における非共面的なスピン配置は、スピンベリー位相機構を通じて有効磁場を生むことから、チャーン絶縁体やトポロジカルホール効果を発現する舞台として注目を集めている。近年、この非共面的なスピン配置の起源として、特定のフィリングにおけるフェルミ面の不安定性が指摘されている。そこでは、従来のRuderman-Kittel-Kasuya-Yosida (RKKY)相互作用から予想される単一の波数のヘリカル状態よりも、複数の波数のヘリカル状態を重ね合わせた非共面、非共線的な多重Q磁気秩序状態が安定になる。我々はこのような多重Q磁気秩序状態が特定のフィリングに対してのみでなく、広いフィリング領域で安定になる可能性を探索する目的で本研究を行った。しかし、遍歴磁性体における従来の数値シミュレーションでは、一般的のフィリングにおける磁気秩序のユニットセルが大きくなりうるため、最適化されたスピン配置を探索するのが数値コストの観点から困難であった。
そこで我々は、近年共同研究者らによって開発された遍歴磁性体における高効率なアルゴリズムによる大規模な数値シミュレーション[1]を用いて本研究を行った。この手法では、遍歴電子に対する多項式展開法を基に、局在スピンのランジュバン方程式をGPGPUによる大規模な並列化処理で高効率に計算している。この数値シミュレーションを正方格子や三角格子上の近藤格子模型に適用した結果、我々は非共面的な多重Q磁気渦結晶状態が安定化することを見出した[2]。さらに我々は、この磁気渦結晶の安定性を、スピン電荷結合と非共面性の自由度における摂動計算、および磁気渦結晶の近似解に対する変分計算を用いて相補的に確かめた。我々の研究成果は、遍歴磁性体の広いフィリング領域において、磁気感受率の複数のピークから誘発される"フラストレーション"に起因した非共面的な多重Q磁気秩序状態が基底状態として発現することを見出したことである。
更新日:2016.08.25