情報工学系 News
抗体言語モデルと時系列BCRレパトア解析を統合した「LM-QASAS」を開発

Language Model-based QASAS(LM-QASAS)
東京科学大学(Science Tokyo)情報理工学院情報工学系 大上雅史准教授、増田元希大学院生、飯棲俊介大学院生(当時)ならびに神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科の船越洋平講師、薬師神公和准教授、南博信教授、感染症内科の大路剛准教授らは、抗体言語モデルとワクチン接種前後の B細胞受容体(BCR)レパトア[用語1]を組み合わせ、既知の抗原特異的抗体データベースを使わずに、免疫刺激に反応した可能性の高いBCR配列候補を抽出・追跡する解析法「LM-QASAS」を開発しました( QASAS [用語2], Quantification of Antigen-specific Antibody Sequence:特定の抗原に対する免疫反応を抗原受容体レパトア解析を用いて定量評価する方法)。
SARS-CoV-2に関連する10名のデータを解析したところ、 抗体言語モデル[用語3]により抽出された上位候補には、既知抗体に似た配列が、ランダム抽出より多く含まれました。また、10名のうち1名を除き、残り9名のデータから作った「 疑似参照データベース[用語4]」を用いた結果、除外した1名の免疫応答の上昇、ピーク、低下までを再現できました。
LM-QASASは、既知の抗体情報が十分に蓄積していない新興感染症などにおいても、複数人のBCRレパトアから作成した疑似参照データベースを用いて、新たな個人の免疫応答を追跡できる可能性を示しました。これらの結果は、多様性が極めて高い抗体配列においても"深層学習(言語モデル)による生物学的な意味理解が可能であること"を示したものと考えています。今後、対象となる抗原や症例数を拡大し解析精度を高めることで、ワクチン評価をはじめ、感染症、自己免疫疾患、がん免疫など、さまざまな液性免疫応答を捉える解析基盤への発展が期待されます。
本研究成果は、2026年7月30日に国際学術誌『Frontiers in Immunology 』にオンライン掲載されました。
用語説明
[用語1] B細胞受容体(BCR)レパトア:一人の体内に存在する多様なBCR配列の集合です。感染やワクチン接種などに応じて特定のB細胞クローンが増減するため、免疫応答の履歴を反映します。
[用語2] QASAS(Quantification of Antigen-specific Antibody Sequence):「検査対象者のBCRレパトアデータ」と、「特定の抗原に結合するBCR/抗体配列を集めたデータベース」を情報科学的に照合することで、特定の抗原に対する免疫反応を抗原受容体レパトア解析を用いて定量評価する独自技術です。各検体のBCRレパトアデータの中に、データベース内の配列と一致するものが、どの程度存在するか、一致配列のクローン数と割合の推移をグラフにします。
[用語3] 抗体言語モデル(Antibody Language Model):大量の抗体アミノ酸配列から配列の規則性を学習した機械学習モデルです。本研究ではAbLang2を用い、各CDR-H3配列を480次元の数値表現へ変換しました。
[用語4] 疑似参照データベース:LM-QASASなどが時系列レパトアから抽出した候補配列を集めたデータベースです。既知抗体データベースの代わりに、別の個人の免疫応答を追跡するために用います。
詳しくは、下記 Science Tokyo ニュースをご覧ください。