情報工学系 News
プログラマブル材料工学の基盤技術として期待

2種類の生体分子ナノマシンによるDNAネットワークの動的形成(論文より)
東京科学大学(Science Tokyo) 情報理工学院 情報工学系(CBI学会CBI研究機構兼務)の浜田省吾助教(テニュアトラック)と京都大学 大学院理学研究科の角五彰教授らの研究チームは、DNAポリメラーゼと分子モーターという2種類の生体分子ナノマシンを使い、化学エネルギーを動力源としてDNAネットワーク材料をボトムアップで動的に形成するシステムを開発しました。
生命は、自らの身体を形作る複雑な材料を、化学燃料を消費しながら合成し、自在に組み合わせることで動的に作り出します。こういった概念を人工的に模倣する試みとしては、人工代謝系で動く 分子ロボット[用語1]の開発などが既に実施されています[参考文献1-3]。しかし生体内で行われているような、複数種類の酵素や分子モーターなどを組み合わせた多段階プロセスは、限定的にしか再現されていませんでした。
そこで本研究では、DNAを合成する酵素「DNAポリメラーゼ」によって、分子モーターのレールである微小管上に長鎖DNAを合成(化学的組み立て)した後、基板上に固定された分子モーター「キネシン[用語2]」がATPをエネルギー源として微小管を滑走させ、DNA同士を機械的に引き伸ばしながら連結する(機械的組み立て)という、2段階のプロセスを実現しました。この結果、自己集合では実現できない階層的なDNAネットワーク構造が動的に形成されることを実証しました。
本成果は、分子設計だけでなく、材料の合成から組み立てまでの多段階プロセスを設計することで、自律的・動的な構造形成を実現する新しい材料工学の基盤となるものであり、将来的には次世代の分子コンピュータや分子ロボット材料の実現にも道を拓くことが期待されます。
本研究は、北海道大学 大学院理学研究院の Farhana Afroze(ファルハナ・アフローズ)博士(当時)、東京科学大学 総合研究院 Richard Archer(リチャード・アーチャー)博士、台湾中央研究院の平岩徹也博士をはじめとした国内外7機関による国際共同研究として実施されました。
本成果は、6月12日付(現地時間)の「Small 」誌に掲載されました。
参考文献
[参考文献1] 分子ロボティクスの概要:Hamada, S. (2021). Molecular Robotics. In: Ang, M.H., Khatib, O., Siciliano, B. (eds) Encyclopedia of Robotics. Springer, Berlin, Heidelberg. https://doi.org/10.1007/978-3-642-41610-1_189-1
[参考文献2] 本成果のDNA側の基盤技術となった「人工代謝系で駆動するスライム型分子ロボット」:Hamada, S. et al. (2019). Dynamic DNA material with emergent locomotion behavior powered by artificial metabolism. Sci. Robot. 10;4(29):eaaw3512. https://doi.org/10.1126/scirobotics.aaw3512
[参考文献3] 本成果の分子モーター側の基盤技術となった「分子群ロボット」:J. J. Keya et al. (2018). Nat. Commun. 9, 453. https://doi.org/10.1038/s41467-017-02778-5
用語説明
[用語1] 分子ロボット:センサ、プロセッサ、アクチュエータといったロボットを構成する要素を全て分子で作り、統合したシステム。これまでにアメーバ型、スライム型、群れロボットをはじめとする複数の分子ロボットが開発されてきており、本年度よりこれらを発展させて実空間に展開させるプロジェクトが開始している(学術変革領域研究(A)「分子ロボット・エクスプローラーズ」)。
[用語2] キネシン:細胞内の物質輸送を担うタンパク質からなる生体分子モーターの1つ。ATPの加水分解により生じるエネルギーを力学的な運動に変換し、細胞骨格の一種である微小管上を一方向に移動することで積荷を運ぶ。本研究では、基板上に固定したキネシンがその上の微小管をランダム方向に滑走させる「グライディングアッセイ」を応用することで、DNAネットワークの動的形成を実現した。
詳しくは、下記 Science Tokyo ニュースをご覧ください。