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情報空間を支える半導体デバイスは電子の持つ揮発的な「電荷」の自由度を利用しているため、情報の保持に絶えず電力を消費し、半導体デバイスの利用が広がるとともに消費電力の総量が急増している。そのような状況で持続可能なカーボンフリー社会を実現しつつ 高度な情報化社会を実現するには、電子の持つ不揮発的な自由度である「スピン」を利用した低消費電力デバイス(スピントロニクスデバイス)の創出が希求されている。スピントロニクスデバイスを作製するには磁性体(ここでは主に強磁性体)と非磁性体の高品質な接合が求められるため、分子線エピタキシー(MBE)法による高品質な薄膜作製が不可欠である[1,2]。
本研究では、スピントロニクス材料である鉄系III-V 族強磁性半導体と強磁性ペロブスカイト型酸化物La2/3Sr1/3MnO3(LSMO)メンブレンに注目する。鉄系III-V 族強磁性半導体はIII-V 族化合物半導体にFe を添加して強磁性を発現した半導体であり、LSMO メンブレンは基板から剥離されたLSMO 薄膜である。これらの材料のデバイス応用を目指すためには、強磁性の機構を実験的に明らかにする必要がある。ここでは、MBE 法によって高品質な薄膜試料を作製し、放射光分光を用いてFe とMn の電子状態を観測した。3d 電子の遍歴性(あるいは局在性)の観点から3d 電子が担う強磁性について議論する[3,4]。本研究で用いた分光手法は3d 遷移金属化合物だけでなく、幅広い物質系に対して有効な実験手法である。
更新日:2024.10.02