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光励起された分子からの電子移動(PET)は、光エネルギー変換過程において中心的な役割を果たす。太陽光エネルギーの高効率利用を目指し、PETは光学分光法や光電流計測によって盛んに研究が行われてきた。特に近年、光電流計測の顕微技術が開発され、PET効率を局所構造と関連付けられるようになった。しかし、その空間分解能は個々の分子を判別可能なほど高くはなく、得られるシグナルは不均一な局所構造のアンサンブル平均値となっている。二つの物質間の電子移動は、それぞれの電子波動関数の重なり合いに依存するため、原子スケールの構造変化がPET効率に大きな影響を与えうる。従って、PETプロセスを支配する物理を解明するためには、原子スケールでの光電流測定が本質的に重要であり、光電流計測における空間分解能のさらなる向上が切に求められている。
本研究では、走査トンネル顕微鏡(STM)と波長可変レーザーを融合[1-3]することで、単一分子内での光電変換の結果として生じる光電流を原子分解能で計測することに成功した [4]。本研究では、試料としてAg(111)基板上のNaCl絶縁体薄膜に吸着した無金属フタロシアニン(FBPc)[5]孤立分子を用いた。励起レーザーのエネルギーを精密に調整し、FBPc単一分子を電子励起したところ、単一分子で生じるPETが光誘起トンネル電流として明瞭に検出された。STM探針を分子上で二次元的に走査し、流れる光電流値をマップすることで、特定の分子軌道を経由する光電流チャネルを原子分解能で可視化することに成功した。発表では、光電流生成メカニズムの詳細を議論する。
更新日:2024.04.01