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外場に対し非線形に応答する現象が近年注目を集めている。非線形応答は線形応答に対する補正項であるばかりではなく、本質的に異なる現象を引き起こすこともできる。例えば従来の(異常)Hall効果には時間反転対称性の破れが必要であったが、非線形Hall効果[1,2]では時間反転対称性は本質ではなく空間反転対称性の破れが重要である。その他にも電流の非相反伝搬や非線形光学効果など、非線形応答ならではの現象が多く存在する[3-5]。これまでは電場の非線形応答を中心に研究が行われていたが、温度勾配の非線形応答や電場と共存する場合も考えられる。本研究で特に、電場と温度勾配を互いに垂直に印加した場合に、両者の外積に比例する非線形Hall効果 (ここでは非線形カイラル熱電気(Nonlinear Chiral Thermo-Electric, NCTE) Hall効果と呼ぶ)に着目する。NCTE Hall効果はWeyl粒子系において生じることが報告され[6]、 その後に半古典論と対称性に基づいた解析[7,8]から固体中でも生じうることが指摘された。一方で、具体的な固体のモデルでNCTE Hall効果が生じることを示した例はなく、また一般のバンド構造に対する微視的な定式化も不十分となっている。
本発表では、一般のバンド構造(スピンや軌道の自由度)に対するNCTE Hall効果を微視的に定式化をし、具体的なモデルにおいてそれが発現することを示す[9]。非平衡(Keldysh)Green関数を用いて電場と温度勾配の非線形応答を取り扱い、NCTE Hall効果を定式化する。そこで得られた表式をバンド表示することで、先行研究において指摘されたBerry曲率で書かれる寄与の他に、軌道磁気モーメントで書かれる寄与が現れることを見る。また、NCTE Hall効果が生じる簡単なモデルと、カイラル結晶の具体的な強束縛モデルにおいて、実際にNCTE Hall効果が生じることを示す。最後に余裕があれば、磁化構造に起因するNCTE Hall効果についても紹介する。
更新日:2023.09.19