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外部環境と相互作用し、エネルギーや粒子をやり取りする量子系を開放量子系という。このような開放量子系の物理は、デコヒーレンスなどの散逸を理解する上で重要であるのみならず、環境との適切な相互作用を用いて系を制御する目的にも用いられる。特に、近年の冷却原子気体における実験技術の進展により、大自由度・強相関の量子多体系に制御された散逸を導入し、その性質を系統的に調べることが可能となった。このような開放量子系の時間発展は量子マスター方程式によって記述され、これは密度行列に作用するリウビリアンと呼ばれる超演算子によって生成される。リウビリアンを対角化することで量子マスター方程式の形式解が得られるが、相互作用のある量子多体系についてリウビリアンを対角化することは孤立系のハミルトニアンの対角化よりも一層困難な問題となる。開放量子多体系のリウビリアンが可解となる場合はあるか、あるとすれば背後にどのような構造があるのかを調べることは興味深い課題である。
本セミナーでは、冷却原子気体における典型的な散逸のひとつである粒子ロスのある1次元Fermi-Hubbard模型について、そのリウビリアンが可解であることを示す[1]。この厳密解は複素係数に拡張された相互作用をもつ非エルミートHubbard模型の可積分性とリウビリアンの三角行列構造を用いたものであり、厳密に解ける開放量子多体系の新たなクラスを与える。厳密解によって得られた結果として、強磁性定常状態とそこからのリウビリアンギャップ、例外点によって引き起こされる臨界的振る舞い、量子Zeno効果によるスピン電荷分離について説明する。時間が許せば、その他の開放量子多体系の厳密解の結果についても紹介したい[2,3]。
更新日:2023.07.10