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およそ10太陽質量以上の恒星は、進化の最終段階で重力崩壊し大爆発を起こす。その爆発エネルギーは1051 ergにも達する。大質量星が崩壊し原始中性子星が生まれる現場では、電子捕獲反応によりニュートリノが大量に放出される。そのため古くからニュートリノ加熱による爆発機構の研究が盛んに行われてきた。計算機処理能力の大幅な向上により、現代ではニュートリノ輻射輸送込みの三次元電磁流体シミュレーションにより大質量星の爆発を再現できるようになってきている。その一方でニュートリノ加熱メカニズムによるシミュレーションから得られる爆発エネルギーは、観測から得られている超新星爆発の典型的なエネルギーである1051 ergよりも系統的に小さいという問題がある。このことは超新星の爆発メカニズムを解明するためには、現在考慮されている枠組みを超えた物理を導入する必要があることを示唆する。そこで、カイラリティの効果を取り入れた研究が超新星の分野で行われるようになってきた。カイラリティとは右手と左手のようにその鏡像が同一にはならないという性質である。スピンと運動量の向きが平行にある粒子を右巻きの粒子、反平行にある粒子を左巻きの粒子とすると、これらはカイラリティの関係にある。地上実験によりニュートリノは左巻きのみが観測されており、ニュートリノが大量に生成される重力崩壊を起こしている大質量星の中心部では、カイラル対称性が大きく破れた状況が出現すると考えられる。本講演ではこのような状況下で生じるカイラルプラズマ不安定性の物理メカニズムおよび超新星爆発に与える影響について議論する。
更新日:2023.05.29