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アクティブマターとは、自ら動く要素の集まりであり、例えば、鳥や魚の群れが代表的な例として挙げら れる。自ら動く性質(自己駆動性)により系は平衡から大きく離れた状態にあり続け、この非平衡性に起因して平衡では禁止された相転移やパターン形成が生じる。例えば、アクティブマターの典型的なモデルである Vicsek モデルでは、有限温度の2 次元系であるにも関わらず、連続対称性の破れが生じる[1]。アクティブマター物理はこれまで、もっぱら古典系を舞台に研究が行われ、生物系の理解などに応用されてきた[2]。一方、量子系においてはほとんど調べられてこなかった。この背景には、アクティブマターのよう非平衡開放多体系を量子的な系において実現することが難しかったことが考えられる。しかし、近年の人工量子系の実 験技術の進展により、散逸に誘起された量子相転移が実際に観測されており[3]、実験的な舞台が整いつつある。
そこで我々は、量子系におけるアクティブマター物理を開拓することを目指し、理論研究に取り組んでい る[4,5]。論文[4]では、古典アクティブマター模型を拡張することで「量子系におけるアクティブマター」と呼べるモデルを初めて構築し、量子系においてもアクティブマター特有の非平衡相転移が生じることを明ら かにした。具体的には、スピン依存非対称ホッピング(自己駆動力に対応)を持つ非エルミート量子多体系を考案し、その模型を数値計算(厳密対角化・量子モンテカルロ法)により調べ、いずれの場合も自己駆動力に起因した相転移が生じることを示した。また、我々の提案する量子アクティブマター模型を冷却原子系において実現・観測するためのセットアップも合わせて提案した。これらの結果は、「量子アクティブマター」という新概念を提案し、量子多体物理・アクティブマター物理の双方にとって新しい研究の方向性を拓くものである。
本セミナーでは、我々の量子アクティブマター研究について、その背景となる基本的な内容から説明す る。時間が許せば、現在準備中の別の量子アクティブマター模型に関する論文[2]についても紹介する 。
更新日:2023.04.28