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非平衡多体系では、ときに熱平衡系では生じ得ない状態が現れうる。熱平衡状態では起こり得ないことが証明されている時間結晶相の実現や、空間2次元系でありながら長距離相関を示すフロッキング相の出現はその一例である。そのため近年、非平衡状態を用いた新たな物性探索の可能性が電子系・冷却原子気体・超伝導回路等の量子多体系からアクティブマター・化学反応ネットワーク・生命科学等に至る幅広い分野において盛んに研究され、大きな進展を見せている。 熱平衡状態における相転移の理解には、ランダウ理論が大きな成功を収めてきた。この理論は、自由エネルギー最小の状態が実現するという熱平衡状態の原則に基づき、各相での自由エネルギーを計算、比較することで相転移を記述するというものである。このような「エネルギー関数最小化の原理」は、実は非平衡相転移に関しても”ある程度”有用である。実際、光学双安定性、フロッキング相転移、及び、異方的パーコレーション転移などの多くの非平衡相転移において、現象論的なランダウの自由エネルギーを導入することでその相転移の存在を導くことが可能である。この場合、非平衡性は揺動散逸定理を破るノイズによりもたらされる空間・時間揺らぎを通してのみ現れる。
本稿では、ギンツブルク・ランダウ理論を一般の非平衡系に適用できる形に拡張することにより、上記の「エネルギー最小化の原理」に則らない新しいクラスの非平衡相転移現象が現れることを示す。これは、集団モード間の非相反な結合により、有限ギャップモードがゴールドストーンモードと「合体」、集団励起スペクトルに例外点と呼ばれる特異点の出現により特徴づけられる。例外点の出現は一方のモードが他方のモードと一方的に結合することを示唆しているため、詳細釣り合い条件を必ず破っている必要性があり、これは熱平衡状態の対応物のない相転移点であると言える。この「臨界例外点」近傍では、空間4次元以下で発散する異常に巨大な揺らぎが生じ上部臨界空間次元が8へと跳ね上がるという、非常に特異な臨界現象を示す。その他ヒステリシスや時間(準)結晶が現れるなど、現れる物性は多岐に及ぶ。
本発表では、量子開放系やアクティブマター系などの例を交えながらこれらの物理を紹介する予定である。
※4/10(月) 14:00-から、本館1階M-143A(H119A)講義室にて、基本事項に関する講義もお願いしています。よろしければこちらもご参加ください。
更新日:2023.04.10