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FeSe(Tc ~ 9 K)は、鉄系超伝導体の中で最も単純な結晶構造を持つ物質であるが、その電子状態は複雑かつ異常であり、興味深い研究対象になっている。FeSeは、他の鉄系超伝導体と同様に補償された半金属で、非連結の電子Fermi面と正孔Fermi面を持つが、いずれのFermi面でもFermiエネルギーが10 meV程度と非常に小さい。一方、超伝導ギャップは数meVと大きく、BCS-BECクロスオーバー領域にある。また、約90 K以下で電子系に大きな異方性が現れ、電子系が自発的にその回転低対称性を破る電子ネマティック状態に転移する。また、超伝導ギャップは大きな波数依存性を持つことが知られている。これらの特徴から、FeSeは、BCS-BECクロスオーバー領域に特有な現象の探索、電子ネマティシティと超伝導の関係の研究、非従来型超伝導機構の研究などの恰好の舞台となっている。
FeSeでSeをSやTeで置換すると、ネマティシティが抑制されたり、バンド構造がトポロジカルに非自明になったりするなど、電子状態が変化するが、Teを80 %程度以上高濃度置換した領域を除いて、超伝導は広い置換領域で発現する。我々は、Fe(S,Se,Te)のバンド分散と超伝導ギャップを分光イメージングSTMによって調べ、この系には少なくとも3つの異なる超伝導状態が存在することを見出した。講演では、この結果を基にFe(S,Se,Te)における超伝導とネマティシティの関係や、トポロジカル超伝導の可能性に関して議論する。
更新日:2022.11.17