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第2種超伝導体中の渦糸は, (1)格子・グラス・液体などの相を形成し混合状態の超伝導特性を支配すると共に, (2)電流駆動により, ランダム基板上を運動する粒子系とみなすことができる. 我々は(2)の視点に立った非平衡物理の研究を進め, これまでに可逆不可逆転移[1,2]やdepinning転移[3]といった非平衡相転移を見出し, さらにそれらの素過程ともいえる運動による秩序化・無秩序化の解明に向けた研究を展開している[2,4]. 一方, (1)に関する重要なテーマとして, 2次元超伝導体の極低温で現れる特異な量子相の問題がある. 本セミナーではこちらに焦点を当て最近の成果を紹介する.
乱れの強い2次元超伝導体では,磁場誘起による超伝導から絶縁体への量子相転移が起こる.理論[5]によると,臨界点近傍の絶縁体相では電子対の局在化に伴う渦糸のボース凝縮が予想されている.一方, 乱れの弱い試料では, 超伝導と絶縁体相の間に異常金属状態が観測されている. しかし,これまでの実験のほとんどは電気抵抗に限られているため, これらの起源は明らかになっていない.そこで本研究では, 超伝導のゆらぎに敏感なネルンスト効果測定を0.1 Kの極低温域迄行える装置を作製し[6], 磁場中金属相が現れるアモルファスMoxGe1-x薄膜を調べた. その結果, 超伝導秩序変数の位相ゆらぎに相当する渦糸液体と, 振幅ゆらぎに相当する超伝導ゆらぎの領域を全温度磁場域で明確に検出することに成功した. この結果より, 絶対零度での金属状態は, 量子ゆらぎによって融解した渦糸液体が起源であることがわかった.
更新日:2019.10.23