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強磁場下の2次元電子系において量子ホール状態が実現すると、電気的なホール伝導度が量子化すると同時に、熱応答においても熱ホール伝導度の量子化が起こる。また、2次元トポロジカル超伝導体やカイラルスピン液体のような電荷のないキャリアを持つ系においても、熱ホール伝導度の量子化によってトポロジカルに非自明な相が特徴付けられる。最近では、キタエフ模型に対応するスピン液体や、占有数5/2の分数量子ホール系において熱ホール伝導度の量子化が実験的に観測され、注目を集めている[1]。これらの系において半奇整数で量子化された熱ホール伝導度は、マヨラナフェルミオンが実現していることの証拠と考えられる。
量子化された熱ホール伝導度がトポロジカル相を特徴付ける物理量であることは、このような熱応答がトポロジカル相の背後にあるアノマリーや位相的場の理論と関係していることを期待させる。特に、熱応答を引き起こす外場である温度勾配が有効的に重力ポテンシャル勾配で表されること[2]、熱ホール伝導度が中心電荷で量子化されること[3]、および量子ホール効果などの電磁応答からの類推により、量子化された熱応答は重力アノマリーおよびトポロジカルな重力場の理論で記述されることが期待されている[4]。しかしこれらの重力場の有効理論においてはそのままの形では熱応答の特徴である"温度"が現れないことから、量子化された熱応答を記述する具体的な理論が問題となっていた[5]。
今回のセミナーでは、2次元トポロジカル相における量子化された熱応答現象に対応した有効場の理論の導出とラフリンの議論について説明する。前半では、トポロジカルに非自明な相に特有の安定な端状態に着目することで、量子化された熱ホール効果を記述する有効場の理論が導出できることを示す[6]。後半では、量子ホール系における断熱的な磁束変化の議論(ラフリンの議論)を量子化された熱ホール効果に適用した結果について解説する[7]。
更新日:2018.12.05