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ホウ素(B)は、3 価であるにも拘らず、単体は共有結合を作り半導体となる。この結合は3中心結合であり、正20 面体クラスター(B12)が固体の構造単位となる。ところが、孤 立クラスターでは、三角格子の準平面構造が安定となり、水素化によってダングリングボン ドを終端できると、「π 結合-σ 結合転換」を起こして正20 面体クラスター(B12H12)が安定になる。これは、同じ13 族で同じ3価のアルミニウム(Al)や14 族で典型的な共有結合を作るシリコン(Si)が、水素化によって「金属結合-共有結合転換」を起こすことと対照的である。この違いは、内殻p 軌道の有無によると考えられる。
固体中では、Al の正20 面体クラスター(Al12)が中心原子の有無によって「金属結合-共有結合転換」を起こすのに対して、B12 の中心は狭すぎて原子を挿入することができないため、クラスター間の空隙に他元素原子を挿入することによって「金属結合-共有結合転換」を起こす。
B の単体には、少なくとも4 種類の多形が存在する。最も安定なβ菱面体晶は、電子不足クラスターであるB48(4 個のB12)と電子過剰クラスターであるB57(3 個のB12 が面を共有したクラスターが2個)から構成されるが、B48の空隙には侵入型原子が電子を供給し、B57では原子空孔が電子を奪っている。つまり、2 種類のドナーと2種類のアクセプターが、それぞれ補償し合っている、「自己補償結晶」である。この結晶に、Li やMg を挿入して電子ドープしようとすると、最初は侵入型原子が抜けて補償し、さらには新に原子空孔が生じて補償してしまう。単体の結晶で「自己補償」を起こすのはB が唯一であろう。
正20 面体は、結晶で最も対称性が高い立方晶の約 2.5 倍高い対称性を持っている。そのため電子状態の縮重度が大きく状態密度の高いエネルギー領域が生じ、同じ対称性を持つC60 の結晶では、同じアルカリ金属の挿入によりフェルミエネルギーを状態密度の高いところに調整して、グラファイトより遥かに高い「超伝導」の臨界温度(Tc)が実現している。しかし、上述のβ菱面体晶やα 正方晶は「自己補償」によって電子ドープできない。一方、 B12 には決して原子空孔は生じないので、B12だけで構成されるα 菱面体晶ボロンには「自己補償」が生ぜず、高いTcが期待できる。ただ、Li やMg の拡散経路が狭いため、大量の挿入ができず低いTcに留まっている。大量挿入できるβ 菱面体晶にLi やMg を挿入し、γ直方晶に変態する高圧高温にすることで、大量挿入したα 菱面体晶の創製と高いTc を目指している。また、六方晶BN へのLi ドープにも成功し、超伝導を目指している。
正20 面体の対称性は結晶の周期と共存できないため、単体の4 つの結晶構造は、単位胞中に12、26、50、105個の理想サイトと、後二者は侵入型サイトを持つ複雑で多様性のある構造を作る。Al12 などの同じ正20 面体クラスターを構造単位とする「準結晶」は、1984 年の最初の報告から27 年間に100 種類以上の物質で見つかり、結晶やアモルファスと並ぶ固体構造の概念として確立して、2011 年にノーベル賞に輝いた。ところが、原子サイズの準周期を持つ「準結晶」には、金属しか見つかっておらず、「半導体準結晶」や絶縁体準結晶が存在するかどうかは、固体物理学の基本的な問題の一つになっている。さらに、「半導体準 結晶」は、高性能熱電材料としても期待できる。B-Ru-Ti 系の液体急冷により、B 系で初めての準結晶を発見したが、B 濃度が40at.%に留まっていたため、半導体になっていない。一方、液体B には液体Si に比べて遥かに多くの共有結合が存在すること、過冷却液体B 中にはB12 の部分クラスターが成長することを見出し、過冷却液体B の急冷により、準安定相として「半導体準結晶」となるはずの準結晶B を探索している。
更新日:2018.06.27