- 日程
- 2018年1月15日(月)
- 時間
- 13:00-
- 場所
- 大岡山キャンパス 本館2階 H239 物理学系輪講室
- 講師
- 菅 誠一郎 教授(兵庫県立大学 大学院工学研究科)
- お問い合わせ先
- 連絡教員:物理学系 古賀昌久(内線2727)
量子物理学・ナノサイエンス第213回セミナー
概要
近年、α-RuCl3, (Na/Li)2IrO3などの蜂の巣格子遷移金属化合物が示す新奇な性質に興味が集まっている。これらの物質にはキタエフ相互作用が存在する事が理論的に示されており [1]、それが観測された新奇な性質の起源と考えられている。α-RuCl3 は特に詳細に研究されている物質である。 数多い実験結果の中で、我々は、非弾性中性子散乱実験で観測された星型の散乱強度 [2,3] と、比熱の温度依存性におけるダブルピーク構造 [4,3]に注目する。これらの実験結果は、α-RuCl3は低温でジグザグ磁気秩序状態に相転移するものの、相図上でキタエフスピン液体相近傍に存在する事を示唆している。これらの実験結果を理論的に説明するためには、 α-RuCl3の有効モデルが不可欠である。第一原理計算に基づく有効モデルがいくつか提案されているが、それらの有効モデルは、上記の非弾性中性子散乱実験結果、および比熱の温度依存性に関する実験結果の両方を説明する事には成功していない [5]。α-RuCl3に対する有効モデルの問題は、未だに論争中である。
我々は、第一原理計算に基づく 4種類の有効モデルを用いて、静的スピン相関関数、動的スピン相関関数、比熱の温度依存性を計算する。その計算結果と実験結果とを比較して、4種類の有効モデルの問題点を指摘する。それらを背景として、我々は α-RuCl3に対する現象論的有効モデルを提案する [5]。この有効モデルは、上記の非弾性中性子散乱実験結果、および比熱の温度依存性に関する実験結果を定性的だけではなく定量的にも説明する [5]。我々はさらに、この有効モデルを使って THz光学吸収スペクトルを計算する。当日は、THz分光の実験結果 [6] と比較しながら、得られた結果を議論する予定である。
- [1] G. Jackeli and G. Khaliullin, Phys. Rev. Lett. 102, 017205 (2009).
- [2] A. Banerjee, J. Yan, J. Knolle, C. A. Bridges, M. B. Stone, M. D. Lumsden, D. G. Mandrus, D. A. Tennant, R. Moessner, and S. E. Nagler, Science 356, 1055 (2017).
- [3] S-H. Do, S-Y. Park, J. Yoshitake, J. Nasu, Y. Motome, Y-S. Kwon,D. T. Adroja, D-J. Voneshen, K. Kim,T-H. Jang, J-H. Park, K-Y. Choi, and S. Ji, arXiv:1703.01081
- [4] Y. Kubota, H. Tanaka, T. Ono, Y. Narumi, and K. Kindo, Phys. Rev. B 91, 094422 (2015).
- [5] T. Suzuki and S. Suga, in preparation.
- [6] Z. Wang, S. Reschke, D. H´uvonen, S.-H. Do, K.-Y. Choi, M. Gensch, U. Nagel, T. Rõõm, and A. Loidl, Phys. Rev. Lett. 119, 227202 (2017).
- ナノサイエンス・量子物理学国際研究センター 主催
- 東京工業大学理学院・物理学系、「ナノサイエンスを拓く量子物理学拠点」共催