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遷移金属においてFe、CoおよびNiのみがバルク状態で室温において安定な強磁性を発現する。近年の研究において、それらの金属以外にPdなどの遷移金属が微粒子状態において強磁性を発現することが実験的に示されてきた。金属における磁性は主にフェルミエネルギー付近の状態密度D(εF)により特徴づけられることから、微粒子化に伴う電子状態の変化が強磁性の発現を引き起こすものと理解されているが、その詳細は明らかではなかった。本研究では、Pd(100)超薄膜に形成されるd電子量子井戸状態に起因したD(εF)の変調に伴うPdの磁性の変化を詳細に調べた。
SrTiO3基板上に堆積したPd(100)超薄膜の磁化測定から、Pd中に膜厚に対し振動的に自発磁化が生じ、その最大値がNiの磁化に相当することが見出された。この振動周期はPdのフェルミ面の形状より予想される量子井戸状態の周期と完全に一致する。これより、Pd(100)超薄膜では特定の膜厚で量子井戸状態に起因したD(εF)の増大が生じ、強磁性の発現条件であるStoner条件が満たされることで強磁性が発現することが明らかとなった[1]。本試料について、in-situ構造解析実験および第一原理計算から、量子井戸状態により誘起された強磁性と構造の関係について議論を行った。それより、Pdの強磁性の発現に伴い表面エネルギーに利得が生じ、それが薄膜構造の一様性を高めることが明らかとなった。また、Pdが交換分裂した際に生じたエネルギーの損失分を抑制するために、自ら格子を膨張させることが観測された。これは磁気相転移に伴い構造の変動を介して系のD(εF)が変調されるという、従来のStoner理論の逆効果の存在を示唆する[2]。
本結果は、遷移金属において磁性‐量子井戸状態‐構造歪みの三要素の相互関係により磁気状態が決定されるメカニズムを示す。この知見が他の磁性材料に拡張されることで、電子構造エンジニアリングによる材料の磁気機能のデザインが可能となることが期待される。
更新日:2017.09.12