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流体力学は系の長波長・長周期のダイナミクスを記述する低エネルギー有効理論である。相対論的流体力学の基礎方程式は、散逸を無視した完全流体に関するオイラー方程式(0次の流体方程式)、散逸を考慮したナビエ・ストークス方程式(1次の流体方程式)のように、現象論的には古くから知られており、重イオン衝突実験で生成されたクォーク・グルーオン・プラズマの記述などに広く用いられている。
しかし、ミクロな理論、つまり場の量子論に基づいたその基礎づけの理解はまだ不完全な段階にあった。近年になってカイラル磁気効果(Chiral Magnetic Effect)などの量子異常に起因した新奇な輸送現象の存在が指摘された[1]のはその不完全さの一例を示している。
本セミナーでは非平衡統計力学の方法の基礎を概観した上で、その方法を場の量子論に適用して相対論的なナビエ・ストークス方程式を導出した研究を紹介する[2][3]。また時間が許せばその枠組みの中で、カイラル磁気効果のような非散逸性の輸送現象がどのように記述されるかについても簡単に説明する。
更新日:2017.04.24