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A3C60の組成を持つフラーレン化合物はTc=38 Kに達する高い超伝導転移温度を持つ物質群である。フラーレンの分子軌道は空間的に広がっているため、分子間の電子ホッピングのエネルギーが比較的小さく、クーロン相互作用の効果が重要となる。実際に、超伝導状態の近傍には電子がクーロン斥力によって局在化するモット絶縁体相が存在しており、強相関電子系であることが知られている。さらに、フラーレン分子の振動モードも電子系と結合するため、電子・フォノン相関も物性に本質的な役割を果たしている。最近、モット相近傍に絶縁体と金属両方の振る舞いが共存する奇妙な状態が実験的に見出され、ヤーン・テラー金属と呼ばれている[1]。
我々はこの起源を解明するため、フラーレン化合物の低エネルギー電子状態を記述する理論モデル(多軌道ハバードモデル)を解析した。その結果、縮退した軌道のうち一部が自発的対称性の破れを伴って絶縁体化し、残った軌道は金属のままであるという、自発的軌道選択型モット転移が実現していることを明らかにした[2]。この状態では通常の秩序変数である軌道モーメントはゼロであるが、その代りに多体の物理量によって特徴づけられる特異な秩序状態となっている。理論的に得られた相図は、フラーレン化合物の特徴的な4つの相(常磁性相、反強磁性、超伝導相、ヤーン・テラー金属相)すべてを定性的に捉えている。
[1] R.H. Zadik et al, Science Advances 1, e1500059 (2015).
[2] S. Hoshino and P. Werner, arXiv:1609.00136 (2016).
更新日:2016.10.21