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導体を流れる電流を観測すると、どんなに理想的な実験を行っても電流は揺らいでノイズを持つことがある。よく知られた電流の揺らぎの原因に熱揺らぎがあるが、これが抑えられる絶対零度でも、電荷の離散性が顕著になる と(ポアソン過程による電流生成)、電流は揺らぐ。この電流ノイズは統計性により、平均電流との比が、電流によって運ばれる状態の有効電荷という非常強い情報を与えることが知られている。この顕著な性質を利用することで、 電子が多体状態を形成した系では、非自明な電荷が直接的に観測することができる。例えば、分数量子ホール系の分数電荷の観測や超伝導接合系のクーパー対電荷(倍電荷)はもう十数年以上前に、電流ノイズを用いて直接的に 観測された。本講演では、もう一つの典型的な電子の多体効果である近藤効果による、量子ドット系の非平衡電流の電流ノイズと有効電荷について解説する。近藤状態の低エネルギーの状態はランダウのフェルミ流体を拡張した 局所フェルミ流体で記述される。非平衡電流中には、フェルミ流体の残留相互作用によって倍電荷状態の準粒子対の後方散乱が発生し、電流ノイズを増幅する。電流とショットノイズの比は、対称性、電子数、相互作用などによ って特有の値をとる[1-6]。
前半では、簡単なショットノイズ、量子ドットと輸送、近藤効果の解説からはじめ、局所フェルミ流体論に基づいた、近藤効果の起こっている量子ドットの非平衡電流とショットノイズのメカニズムについて入門的にお話しす る。さらに、最近のショットノイズの観測実験[7]や、準粒子対のエンタングル特性についての理論などの発展を簡単に紹介する。後半では、電流の完全計数統計と具体的な摂動計算を用いた電流ノイズの計算通して、有効電荷状 態の形成と近藤効果による非平衡電流の揺らぎメカニズムについて解説する。
更新日:2016.07.11