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地球の内核は7億歳?地球冷却の歴史の一端が明らかに

地球中心核条件下での鉄の電気伝導度測定に成功

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2016.06.08

要点

  • 地球中心核に相当する高温高圧下における鉄の電気伝導度測定に成功した
  • 地球中心核の電気・熱伝導度はこれまでの予想よりも3倍程度高い
  • 内核の冷却速度を計算した結果、内核の年齢は約7億歳であり、地球の誕生時期46億年前よりもはるかに若い

概要

東京工業大学の太田健二講師、廣瀬敬教授と、愛媛大学の桑山靖弘助教、大阪大学の清水克哉教授ならびに高輝度光科学研究センターの大石泰生副主席研究員の共同研究チームは、大型放射光施設SPring-8[用語1]を利用して、地球中心核[用語2]の主成分である鉄の電気伝導度を最高157万気圧、4,500ケルビン(絶対温度、K)という超高温超高圧条件で測定し、地球中心核の電気・熱伝導度が従来の予想よりも3倍程度高いことを明らかにしました。

地球の中心部は固体金属内核とその外側の液体金属外核の2層構造になっている非常に高温高圧の領域です。地球内部の熱が地表へと移動することで地球内部の温度は徐々に低下し、それに伴い内核はその大きさを増しています。また、外核が対流することで、地球には約42億年前から磁場が存在していると考えられています。では、内核が何年前に誕生したのか、内核の存在が地球の磁場に影響を与えるのかどうかを知るためには鉄の伝導度[用語3]を実験によって明らかにすることが必要です。しかし、外核の最上部ですら135万気圧、4,000 K以上の超高温高圧状態であるため、こうした極限条件において物質の伝導度を計測することは技術的に困難でした。

共同研究チームは、鉄試料を高温高圧状態で保持できるレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル装置[用語4]を用いて、SPring-8において、地球中心核条件に相当する高温高圧下で鉄の電気伝導度を測定することに成功しました。その結果、核の熱伝導度はこれまでの予想よりも3倍程度高い約90 W/m/K(ワット毎メートルケルビン)程度であり、核の熱・電気伝導は非常に活発であることが明らかになりました。核の伝導度から推定される内核の誕生年代は約7億年前となり、40億年以上前から存在することが確認されている地球磁場の生成・維持機構に関する新たな知見を与える結果です。本研究成果は国際科学雑誌『Nature』に6月1日に掲載されました。

背景

地球の中心は、圧力360万気圧、温度5,000 K超の極限的な環境にあり、地球中心から地表面までの距離約6,400 kmにおいて巨大な熱の流れを生み出しています。この大きな熱勾配は地球外核とマントルの対流を引き起こし、地球磁気圏の生成やプレート運動などの地球のダイナミズムの原動力となっています。また、約46億年前の地球が出来た当初は高温のために存在しなかった固体金属内核も地球内部の温度が下がることによって、ある時期に誕生し、現在も成長を続けています。そのような地球内部の熱・構造進化は地球の冷却の歴史にほかなりません。地球の内部を構成する物質の熱伝導度(熱の伝わりやすさ)を知ることで、地球がどのくらいの速度で冷えているのかが推定できます。従って、核の冷却史を調べるためには核の主成分である鉄の伝導度の情報が必要です。古くは1940年代から核の伝導度の推定は行われてきましたが、その推定値には大きなばらつきがありました。2012年頃に理論計算[用語5]によって地球中心核の電気・熱伝導度の見積もりがなされ、核の伝導度がこれまでの予想よりもはるかに高いことが示唆されていましたが、実際の核の温度圧力条件における実験による検証はなされていませんでした。この検証のためには実際の核の温度圧力条件における鉄の伝導度の直接測定が必要です。金属の場合、電気と熱は共に自由電子によって運ばれるために、鉄の電気伝導度を測定することで熱伝導率を算出することも可能です。しかし、核に相当する圧力を実験室で再現しようとする場合、試料の大きさは直径30ミクロン以下と非常に小さくなってしまうため、極小試料の電気伝導度を測定することは非常に困難でした。

研究手法と成果

研究グループはまず、高温高圧発生装置であるダイヤモンドアンビルセルの内部に、微細な電気抵抗測定用回路を作成するための技術開発を行いました。収束イオンビーム(FIB)加工装置[用語6]を用いることで、高圧装置内部に非常に細かな電気配線加工が可能になりました。その結果、200万気圧を超える高圧力、4,500 Kの高温条件での鉄の電気伝導度測定実験が可能となりました。

SPring-8の高圧構造物性ビームライン BL10XUに設置されたレーザー加熱システムを使用し、約157万気圧、4,500 Kまでの条件での実験から純鉄の電気伝導度を決定しました。また、BL10XUのX線マイクロビームを使用したX線回折像から鉄試料の結晶構造と実験圧力条件を決定しています。

この実験によって決定された純鉄の電気伝導度から見積もった核の電気・熱伝導度は約90 W/m/K程度であり、最近の理論計算[用語5]によって報告されている高い核の伝導度を支持する結果です。本研究で得られた核の熱伝導率を用いて、核の冷却速度の計算を行った結果、予想される内核形成開始年代はおよそ7億年となっています。古地磁気測定から、約42億年前から地球には磁場が存在し、約13億年前に磁場強度が増大したと報告されていますが、この磁場強度の増大は内核の誕生に起因するものではないことを本研究結果は示唆しています。また、内核が存在しなかった30億年以上の期間にどのようなメカニズムで地球の磁場が維持されてきたのか再考する必要があるでしょう。

今後の期待

地球中心核には鉄の他に水素やケイ素などの軽元素が含まれていると考えられており、これらの軽元素が鉄の伝導度を大きく変える可能性があります。今回用いた高温高圧下での純鉄の電気伝導度測定手法はその他の核候補合金に対しても適用可能です。核の伝導特性が明らかになることで、地球磁場の成因である地球ダイナモのメカニズムや、地球形成初期の地球内部の温度状態も明らかになっていくものと期待できます。

用語説明

[用語1] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

[用語2] 地球中心核 : 地球の中心から半径3500 kmの領域で、固体金属からなる内核と液体金属からなる外核で構成されています。地球中心核の外側をマントル、地殻が取り囲んでいます(下図を参照)。主成分である鉄の他に少量のニッケルと軽元素(水素、炭素、酸素、珪素、硫黄)が含まれていると考えられていますが、詳細な化学組成は不明です。液体外核の対流によって地球磁場が生じていると考えられています。

地球中心核

[用語3] 鉄の伝導度 : 金属では、電気と熱は共に金属中の自由電子によって運ばれます。そのため、金属の電気伝導度(σ)と熱伝導度(κ)、絶対温度(T)の間にはヴィーデマン-フランツ則(κ = L0σT、L0は定数)とよばれる関係があります。

[用語4] ダイヤモンドアンビルセル装置 : ダイヤモンドを用いた小型の高圧装置(図A)。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられています(図B)。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料と圧力媒体を入れて2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生させます。ダイヤモンドの先端のサイズを小さくすることで、地球中心部に相当する圧力(約360万気圧)の発生が可能です。

ダイヤモンドアンビルセル装置

[用語5] 論文情報 : Pozzo et al., Thermal and electrical conductivity of iron at Earth's core conditions. Nature 485, 355-8 (2012)、及び、de Koker et al., Electrical resistivity and thermal conductivity of liquid Fe alloys at high P and T, and heat flux in Earth's core. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 4070-4073 (2012).

[用語6] 収束イオンビーム(FIB)加工装置 : ガリウムイオンを電界で加速したビームを数ナノメートルまで細く絞り、微細加工、蒸着、観察などを行う装置。

論文情報

掲載誌 Nature(出版元:Nature Publishing Group)
論文タイトル Experimental determination of the electrical resistivity of iron at Earth's core conditions
著者 Kenji Ohta1*, Yasuhiro Kuwayama2, Kei Hirose3,4, Katsuya Shimizu5, and Yasuo Ohishi6
所属 1 東京工業大学 理学院 地球惑星科学系、2愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター、3東京工業大学 地球生命研究所、4海洋研究開発機構 海洋地球生命史研究分野、5大阪大学 大学院基礎工学研究科附属極限科学センター、6高輝度光科学研究センター、*Corresponding author
DOI 10.1038/nature17957 outer
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