化学系 News
低温で高性能な燃料電池の発展に向けた材料開発を加速
東京工業大学 理学院 化学系の矢口寛大学院生(研究当時)、八島正知教授らの研究グループは、200℃以下の低温域で従来の材料を超える酸化物イオン伝導度を示す新材料の酸塩化物LaBi1.9Te0.1O4.05Cl(= Bi1.9Te0.1LaO4.05Cl)を発見した。また、酸化物イオン伝導度が高い高温での結晶構造と酸化物イオン(O2−)の拡散経路を解明した。さらに、第一原理分子動力学シミュレーションを行うことで、この新材料の酸化物イオン伝導メカニズムを明らかにした。その結果、酸化物イオンは格子間酸素席と格子酸素席を介して二次元的に準格子間機構により拡散するため、LaBi1.9Te0.1O4.05Clは高いイオン伝導度を示すことが分かった。また、この新しい酸化物イオン伝導体は、広い酸素分圧範囲で電気伝導度が一定で発電効率を落とす電子伝導を示さない上に、化学的に非常に安定であるという特徴も見出した。
本研究で実現した「準格子間機構によるBi含有高酸化物イオン伝導」は、従来のビスマス(Bi)を含む高イオン伝導体とは異なり、酸化物イオン伝導体の新しい設計指針となり、さまざまな新材料開発が期待される。また、低温域での高イオン伝導と高安定性の実現により、低温で作動する固体酸化物形燃料電池など、高性能電気化学デバイスの開発につながると期待される。
本研究は、東北大学 多元物質科学研究所の森川大輔助教、同 学際科学フロンティア研究所の津田健治教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所/J-PARCセンターの齊藤高志特別准教授との共同研究である。
本研究成果は、2023年4月20日(現地時間)に国際学術誌「Advanced Functional Materials」電子版に掲載された。詳しくは東工大ニュースをご覧ください。