化学系 News
ウイルスを模倣した自己精密集積化を実現
東京工業大学 理学院 化学系の山科雅裕助教と豊田真司教授、澤中祐太大学院生(当時)、大津博義助教(当時)の研究グループは、ウイルスの構築原理を利用し、ピンセット状の形状を持つ有機分子を段階的に集合させることで巨大人工分子を構築する独自技術の開発に成功した。
レアメタルはさまざまな分子合成における触媒などとして利用されているが、近年は価格高騰や希少資源保全などの観点から、“脱レアメタル”の分子合成手法が社会的に重要視されている。本研究では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)の構築原理である「自己相補性」に着目し、アントラセンを先端部にもつピンセット分子の自発的な集合を利用することで、環状集合体を高選択的[用語5]に構築することに成功した。得られた環状体は、約2ナノメートルの円柱状という前例のない構造をもち、6つのピンセット分子が「つかむ・つかまれる」を繰り返すことで形成される。環状体は強い青色蛍光を示すとともに、高い機械的・熱的安定性を示した。さらに、酸性条件下では18個の環状体(基本要素のピンセット分子換算で108分子)が集合し、ウイルス同様に巨大な内部空間を有する約7ナノメートルの球状集合体を構築することが判明した。本研究成果は、希少資源のレアメタルを必要としない複雑系分子構築法の新展開であり、光材料を中心としたさまざまな機能性材料開発への応用が期待される。
この研究成果は、英国の総合化学雑誌「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」に2022年9月26日にオンライン掲載された。詳しくは東工大ニュースをご覧ください。