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令和2年度系主任をお務めの梅室先生にインタビューしました

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2021.01.21

経営工学系の梅室博行先生にお話をうかがいました。先生は平成元年から株式会社野村総合研究所にお勤めののち平成4年10月から東京工業大学工学部経営工学科に移り、その後大学院社会理工学研究科を経て、2016年の工学院発足時より経営工学系の教員をなさっています。

梅室博行教授

梅室博行教授

まずはご専門を教えてください。

人の感情経験を研究しています。私たちが毎日生活したり勉強や仕事をしたりする中で、ほとんど絶え間なく私たちは感情を感じています。豊かな感情経験は大切なものであると私達の誰もが何となくは知っている一方で、多くの人が「感情はふわふわした実体の無いもの」と思っていて、「気のせい」くらいに考えている人も少なくありません。さらに、例えば「その嬉しかった経験は何円の価値がありますか?」と聞かれても、お金の価値に換算するのはとても難しいですよね?このようにその価値をうまく数値化できないこともあって、本来大切なもののはずの私達の感情経験は、こんにち人々にきちんと価値を認められていないのでは無いか? そんな問題意識から研究をしています。

そのためにはまず、人が感情を感じるということは一体どういうことなのか、人間のメカニズムを理解すること。そして、その「感情」という現象はいったいどういう状況で、何を原因に人々に生じるのかをきちんと知ることが大切です。喜怒哀楽のような基本感情から、達成感や嫉妬などのような高次の感情まで、実にさまざまな原因が私たちに感情を引き起こします。また、そのような感情が私たち人間自身や私達の活動、生活にどんな影響を起こしうるのかについても調べます。

そして、人に望ましい感情を経験してもらうにはどのようにすればよいかを考えます。私達の生活の仕方、仕事のやり方を変えるだけでも人の感情は動きますし、情報通信技術など技術の力を借りることもあります。またより望ましい感情経験を与えるようなサービスや技術をデザインすることもあります。私たちが最近人間とロボットやエージェントとの間のインタラクション(Human-Robot/Agent Interaction; HRI, HAI)のデザインの研究に力を入れているのも、ロボットやエージェントという技術には非常に豊かで複雑な感情経験を私たちにもたらしてくれるポテンシャルがあると考えているからです。

先生の分野で現在、最も重要な・面白い話題はありますか?

最近私たちの研究室でとても興味を持っているのは、複数の人が一緒にいる場での感情です。もちろん人間は一人でいるときにも感情を感じますが、複数の人がいると感情はさらに複雑で興味深いことをします。例えば誰か一人の感情が他の人に「伝染る(うつる)」ことが知られていて情動感染(emotional contagion)と呼ばれています。また一人一人が今どのような感情かという情報は、言葉を介さなくても非常に高速に人々の間で交換されています。これがグループの意思決定や仕事のパフォーマンス、ひいてはグループの仲間の力に影響することが知られています。

このような人のグループの中の感情についてわかってくると、例えばAIや情報通信技術などを使ってグループの感情の情報をうまく使って、例えばグループの人の仕事のパフォーマンスを上げたり、結束力を高めたりというようなアイディアも出てきます。また、ここしばらく社会で叫ばれてきた「働き方改革」のおかげか、企業の職場で働く人たちの感情経験や働き甲斐などを向上させるための効果的な方策はないか、といったテーマで企業と共同研究を行わせていただく機会も増えています。

最後に今後の抱負を聞かせてください。

昨年(2020年)のコロナウィルス感染拡大にともないテレワークやオンライン授業などが導入され、私たちの働き方や教育、研究のやり方が大きく変化しようとしています。それに伴い、実は先にお話しした感情の情報のやりとりはさまざまな点で難しくなっています。ビデオ会議で話していても、対面で話しているときに比べれば交換される情報、特に非言語の感情に関係する情報は格段に少なくなります。このことが私達のグループのパフォーマンスや人間関係にどのような影響を及ぼすのか、それを補いさらに拡張するために情報通信技術に何ができるのか、これから取り組むべきテーマです。

また、オンライン、オフラインにかかわらず、これからはAIを用いたエージェントが人間のグループの中に入ってきて一緒に仕事をするのが普通のことになってきます。その時に、人間同士では絶えず無意識に行なっていた感情などの非言語情報の交換はどうなるのか。例えばロボットと人間の間で情動感染が起こることは既にわかっています。エージェントをうまく設計したり、情報通信技術を使って感情に関する情報をうまく活用したりして、グループの状態をよくすることはできないか。パフォーマンスを上げることはできないか。そのようなテーマもこれからどんどん面白くなってくるでしょう。

このような人の感情の研究をおこなうには、エンジニアだけが集まったのではダメで、多様なバックグラウンド、多様な視点を持った人達が参加してくれるのが理想的です。自分以外の人に興味があって「あの人は今何を感じているんだろう?」「どうしてあの人はそう感じているんだろう?」と考えるのが好きな人、研究室でお待ちしています。

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