社会・人間科学系 News
リベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗教授(社会・人間科学コース 主担当)、物質理工学院 材料系の三宮工准教授、地球生命研究所の関根康人教授が、第19回(令和4(2022)年度)日本学術振興会賞を受賞しました。
伊藤教授、三宮准教授は日本学士院学術奨励賞を併せて受賞しました。
日本の学術研究の水準を世界のトップレベルにおいて発展させるために、創造性に富み優れた研究を進めている若手研究者を見い出し、早い段階から顕彰してその研究意欲を高め、独創的、先駆的な研究を支援することを目的に2004年に創設された賞です。
受賞対象者は、人文・社会科学及び自然科学の全分野において、原則45歳未満で博士又は博士と同等以上の学術研究能力を有する者のうち、論文等の研究業績により学術上特に優れた成果をあげている研究者となっています。 受賞者には賞状、賞牌及び副賞として研究奨励金110万円が贈呈されます。
日本学術振興会賞受賞者のうち6人以内には日本学士院学術奨励賞が併せて授与されます。日本学士院学術奨励賞は、若手研究者を顕彰して今後の研究を奨励することを目的として、2004年に創設されました。
記念授賞式は2月7日に日本学士院で開催されました。
伊藤亜紗教授は、美学から出発し、これまで一貫して身体と言語の関係を追究してきました。とくに障害者やスポーツ選手に積極的にインタビューを行い、言葉を通して身体を当事者の身体感覚に即して捉え直そうとしたことは、伊藤氏の重要な学術的貢献です。障害を欠落と捉えるのではなく、異なる身体を通して世界を新たな眼で見つめ直そうとする伊藤教授の研究手法は、斬新かつ独自のものであり、伊藤氏が単独で切り拓いたジャンルとも言えます。障害者に関連する一連の著作は、直接に福祉を目的としていないとはいえ、障害者の世界への新たなアクセスを読者に可能にしています。その著作が多くの学問分野、さらには一般読者に大きなインパクトを与え、幅広い福祉の増進に資します。今後は「未来の人類研究センター」のセンター長として、他の学問領域と共同研究を推し進め、成果を海外に積極的に発信することで、新たな国際的展開を生み出し、同分野における若手研究者のリーダーとして、我が国を牽引するうえで中心人物となることが期待されます。
このような栄誉ある賞をいただき光栄です。受賞理由に「研究手法は、斬新かつ独自のものであり、伊藤氏が単独で切り拓いたジャンル」とお褒めの言葉をいただき、たいへん感激いたしました。しかし、わたしの研究は、自分ひとりで行ったというより、関わってくださった大勢の方々によって育てていただいたものだと感じています。インタビューに応じてくださった障害や病気の当事者の方々、未来の人類研究センターでともに議論をしてくれたリベラルアーツ研究教育院の同僚や理工系の研究者のみなさん、研究室の学生たちに、心から感謝もうしあげます。これからも、異分野や異文化との偶然の出会いに導かれながら、研究の向かう先についていきたいと思います。
三宮工准教授は、光および電子の波面制御・位相計測において、独創性の高い優れた成果を挙げています。特に、電子顕微鏡の高分解能化、電子線を用いたナノスケール光位相計測、光波面制御によるバイオセンサーの高機能化などの研究を独自の視点で展開してきました。その中でも線形加速器を用いた電子顕微鏡の開発、キラルな対称性のない球からの光放射の円偏光制御の成果は特筆されます。これらの一連の研究の原点は、収差補正された電子顕微鏡とカソードルミネッセンス(CL)分光法という新たな研究手法にあります。すなわち、収差補正によってCL光波長の1/100という高精度で励起位置を制御することを実現するとともに、放物面ミラーをつかった角度分解分光法でモード選別して位相計測を行うことに成功しています。以上のように、三宮准教授は、加速電子と光の位相抽出および波面制御という観点から卓越した研究を進めており、今後も電子顕微鏡分野を世界的にリードする研究者としての活躍が期待できます。
栄誉ある賞を頂戴し大変恐縮しております。実験的な研究は1人の力ではなく多くの人の関わりで成り立っています。また評価されるためにも、人との関わり、タイミング、運、時流が重要です。これまで一緒に仕事をさせていただいた(現在もさせていただいている)全ての方々、チャンスを与え下さった方々、サポートして下さった方々に心から感謝いたします。引き続き精進してまいりたいと思いますので、日本の研究環境の整備改善に皆様のご支援ご協力いただければ幸いです。
地球外生命の発見は今世紀の自然科学の大目標の1つであり、それには太陽系天体の海に迫る探査が必須となります。関根康人教授はNASAとの国際共同研究の中核となり、地球での生命誕生の場として有力な海底熱水噴出孔が、土星衛星エンセラダスにも存在することを示しました。また初期太陽系に起きた巨大ガス惑星の大移動が外側太陽系の氷天体群の大気・海洋を形成する根本的な要因になったことを指摘しました。これら一連の研究業績は、国際宇宙機関が外側太陽系の氷天体群を探査計画の中心に位置づける大きな潮流のきっかけとなりました。 関根教授は、太古の火星の水環境進化の復元や地球大気の25億年前の酸素濃度急上昇イベントについても新たな考えを提示するなど、太陽系天体の中で生命が存在可能と思われる環境の理解を深める分野横断型の新たな研究領域を開拓しつつあり、惑星科学、アストロバイオロジーへのさらなる貢献が期待されます。
このような栄誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。私の研究の多くは、室内実験や探査機による惑星探査にもとづいていますが、どれも個人で成し得ることではありません。これまで関わってきた国内外の多くの共同研究者、恩師、同僚、学生、そして家族に感謝しています。宇宙に生命を見つけることは、今世紀の自然科学の大目標であり、“なぜ我々がこの世界に存在しているのか”という素朴で深い問いに対する自然科学の回答の1つです。今回の受賞を励みに、今後もこの目標に向かって努力したいと思います。またこれを機会に、東工大でもこのような純粋な自然科学の研究が推進されていること、東工大のもつ学術の幅の広さと自由さを多くの方に知ってもらえたら幸いです。