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「真摯な探究心とやわらかく開かれた文章」に期待して
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来の人類研究センター長でリベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授が、2020年の第13回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞したと、賞を主催する特定非営利活動法人(NPO法人)「わたくし、つまりNobody」が1月31日、発表しました。表彰式と記念講演会は3月3日、出版クラブ(東京都千代田区)で行われ、記念メダル「メビウスの輪」と副賞100万円が伊藤准教授に贈られました。
「わたくし、つまりNobody」によると、この賞は、日本語による「哲学エッセイ」を確立し、2007年に亡くなった文筆家、池田晶子さんの意思と業績を記念し、2008年に創設されました。賞の趣旨は「ジャンルを問わず、ひたすら考えること、それを言葉で表わし、結果として新たな表現形式を獲得しようとする人間の営みに至上の価値を置くものです。考える日本語の美しさ、その表現者としての姿勢と可能性を顕彰し、応援してゆこうとするものです」と説明されています。
NPO法人の会員が推薦した候補者や、自薦の応募者から、会員の選考メンバーが賞にふさわしい人物を毎年1人、選びます。
「体」という「内なる他者」と、どう向き合うか。
肥大する情報空間の中で身体性が希薄化していく現在、ますます重要度が高まる問いです。
伊藤亜紗氏が近年取り組んでいるのは、障害ゆえに自らの「体」と独自の関係を作り上げてきた人たちの「言葉」を手掛かりに、私たちが自明と思いなしている「自分」とは何か、「世界」とは何かを、根源から問い直す試みです。
未知なる世界認識の可能性に向けて、真摯な探究心とやわらかく開かれた文章で迫る伊藤氏のさらなる展開に期待し、当賞を贈ります。
敬愛する文筆家、池田晶子さんを記念した賞をいただけたことは、これ以上ない光栄です。これまで一緒に研究をしてくれた障害のある方々や共同研究者、編集者のみなさんに、心からのお礼を言いたいです。体について研究をしてきた私なので、「わたくし、つまりNobody」ではなく、「わたくし、そしてEverybody」のつもりで、世界中のすべての人が当事者である体をめぐる問いに、少しでも貢献していきたいと思います。
賞の名前について「わたくし、つまりNobody」は次のように説明しています。
この風変わりな賞の創設と名前は、2007年春にこの世を去った、文筆家・池田晶子とその一作品名「わたくし、つまりNobody」に由来します。
彼女は、いつも次のような考え方を示唆しています。
考えているその時の精神は、誰のものでもなくNobody。
言葉は誰のものでもないけれども、それが表現されるためには、誰かの肉体を借りるしかない、そうして現われてくる言葉こそが、人の心を捉え、伝わってゆく……。
大事なのは「誰が」ではなく、誰かによって発せられた「言葉」が、次の時代の人々に引き受けられて、我々の「精神のリレー」が連綿と続いてゆくことである、と。
この賞は、自身もそのように仕事を続けたひとりの文筆家の発想に始まっています