技術経営専門職学位課程 / イノベーション科学系 News
医療デジタルトランスフォーメーションの現在と将来
環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程(仙石研究室)の兪佳侃のプロジェクトレポート研究に基づく論文が、health informatics分野のトップジャーナルの1つJournal of Medical Internet Research (h-Index=178, IF=7.4)に掲載されました。
本研究では、医療・ヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーションの象徴であるプログラム医療機器(Software as a Medical Device, SaMD)のイノベーションプロセスと産業システム構造を実証的に解明し、将来の展望を考察しました。
米国医薬食品局(Food and Drug Administration, FDA)が承認した581のSaMDの製品情報をOpenFDAのウェブサイトから、これらを提供する268のメーカーの企業プロファイルを各種有償データベース及び企業公開情報をもとに収集しました。このデータセットに記述統計、コレスポンデンス分析とビジネスプロセス分析を適用して、使用目的に基づくSaMD製品の分布と、製品・サービスシステムにおけるSaMDと他の医療機器等との関係性を評価しました。
結果、現在のSaMD産業は、医療画像データの処理や放射線画像データの解釈に高度に集中していることが確認されました。企業動向としては、市場形成をリードしている既存の医療機器メーカーは漸進的なイノベーションに注力している一方、新興企業をはじめとする新規参入企業はより破壊的なイノベーションに傾注していることが確認されました。製品・サービスシステムに関しては、ハードウェア医療機器がSaMDの補完資産として機能するが、どのように相互作用するかはSaMD製品分布群により異なることが見いだされました。最後に、これらの知見に基づき、SaMDのイノベーションプロセスを、使用目的の画期性のレベルと、他の医療機器との統合レベルとに基づくレジームマップとして整理しました(図)。
SaMDはデジタルヘルスの中心的な存在として注目を集めていますが、産業としては黎明期に留まり、漸進的なイノベーションが支配的です。将来は、異分野からの企業の新規参入と、医療・ヘルスケアデータへのアクセシビリティの確立が、破壊的イノベーションを駆動する鍵となると考えられます。