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映像作家の小森はるか氏と、映画監督の濱口竜介氏を迎えて、 ILA連続企画「ドキュメンタリー映画の魅力 ─ vol.1」を開催

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2023.11.20

(左から)リベラルアーツ研究教育院の北村匡平准教授、映像作家の小森はるか氏、映画監督の濱口竜介氏

(左から)リベラルアーツ研究教育院の北村匡平准教授、映像作家の小森はるか氏、映画監督の濱口竜介氏

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院(ILA)では、連続企画「ドキュメンタリー映画の魅力」を全3回にわたって開催しました。

初回は「震災を記録したドキュメンタリー映画を語り尽くす」として、ゲストに映像作家の小森はるか氏と映画監督の濱口竜介氏をお招きし、小森監督の『ラジオ下神白(しもかじろ)―あのとき あのまちの音楽から いまここへ』の上映会を実施。その後はリベラルアーツ研究教育院の北村匡平准教授(映画学)が司会を担当して、ゲストとのトークセッションを行いました。

『ラジオ下神白』は、いわき市にある福島県復興公営住宅・下神白団地を舞台に、文化活動家のアサダワタル氏が取り組む独自の被災地支援活動の様子を追ったドキュメンタリー映画です。震災後の東北の風景と人の営みを記録し続けている小森はるか監督は、その活動の様子を映像記録として残しました。


■復興プロジェクト「ラジオ下神白 ーあのとき あのまちの音楽から いまここへー」とは?

東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業(Art Support Tohoku-Tokyo)として、福島県いわき市、東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)などが主催し、ディレクターのアサダワタル氏を中心に福島県いわき市にある県営復興団地・下神白団地を舞台に展開している、音楽と対話を手掛かりにしたコミュニティプロジェクト。


音楽と対話を手掛かりにしたコミュニティプロジェクト

2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故により富岡・大熊・浪江・双葉町から避難し下神白団地に住むことになった住民のみなさんに、故郷の思い出と当時の馴染み深い曲について話を伺い、それをラジオ番組風のCDとして制作し届けることで、団地に住む高齢者の方々のコミュニティ支援に繋げています。


被写体が映り、語り、歌っている『ラジオ下神白』の、シンプルであることの豊かさ

小森はるか氏

小森監督は、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに、これまで『空に聞く』『息の跡』など、被災地の様子をドキュメンタリー映画として制作し高い評価を得てきましたが、今回はアサダワタル氏のユニークな「伴走型支援」の様子を映像記録として残すということを目的に撮影活動に入ったといいます。

自身も震災後に現地で記録映画を制作した濱口竜介監督は映画『ラジオ下神白』について、「被写体と小森さんのポジションがこれまでの作品と違っていて、アサダワタルさんと伴走型支援をしているバンドのみなさんと高齢者の関係を、小森さんが横で見つめている感じがある。だから(被写体が)こっちに向かってるものは少なくて、インパクトとかショックみたいなものはないけれど、アサダさんたちと話す高齢者のみなさんの声が、どんどん大きくなっていく。なんていうか、シンプルであるっていうことと豊かであるってことは、まったく矛盾しないと思う」と述べました。


濱口竜介氏

時としてドキュメンタリー映画では、撮影側が被写体から演出されるような状況が生じることがある中で、小森監督は、”半透明ぐらいの人間” になって現場の中に自然に溶け込んで被写体を撮影しながら、自分のことを語る高齢者の「声」を聞き、撮影側のあり方を模索していたかもしれないと振り返りました。そして撮影側の「聞く」行為が、話すことで自分を取り戻していく団地の高齢者の「声」を映像で記録する作品へとつながりました。

北村匡平准教授

司会の北村准教授は、陸前高田に暮らしていても「旅人として暮らしている」と語った小森監督の存在感について、「自分の主体性を透明化していって、“伝える媒体” になっていくような、 なんか観る側にとって心地いい位置を感覚的に選んでるような感じがする」と表現し、さらに被写体との関係の築き方、ドキュメンタリー映画の制作ならではの手法や向き合い方などについてもゲストの二人と語りました。


ディスカッション

最後のQ&Aでは、意外にむずかしい風景ショットについての撮影や、震災を経験した大学生からの東北を撮るスタンスについて、小森監督、濱口監督が回答。また、それぞれ自身の見た目についてどう思うかという問いに対して、濱口監督は「監督に実際に会うとこういう映画を撮るんだろうなと思って納得する」と答えました。北村准教授は「ドキュメンタリー映画の撮影はカメラの存在以上に作家自身が見た目も含めてどのようにフィールドに入っていくか、どういう関係性を結んでいるかによって、撮られる人から出てくるものがまったく違う」とし、「これはドキュメンタリーを撮るということの本質的な問いですね」と述べ、イベントを締めくくりました。


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