リベラルアーツ研究教育院 News

学生の朝寝坊は生理的なもの? 睡眠リズムを知って、より良い生活につなげよう

【睡眠学、時間生物学、健康科学】駒田 陽子 教授

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2022.07.14

駒田 陽子 教授

休日の寝だめは危険
「睡眠負債」に気をつけて

私が研究しているのは「睡眠学」です。聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。でも、あらゆる人に関係がある研究です。なぜなら、睡眠はすべての人が一日一回は必ずとる、重要な生命現象だからです。したがって、医療面からのアプローチだけでなく、科学的、生理学的、社会学的な観点をはじめ、政策や文化的な観点などからも包括的に研究していくことが大切だということで、2002年、日本学術会議で新しい学問分野として「睡眠学」が創設されました。

「睡眠負債」という言葉をお聞きになったことがあると思います。研究者は20数年前から使っていましたが、2017年にNHKスペシャルで特集され、一気に広まりました。成人でも一日の睡眠は7時間から9時間必要です。しかし、それより少ない睡眠時間で生活している人のほうが多いのが現状でしょう。睡眠負債は、毎日30分なり1時間なり、慢性的に睡眠が足りていない状態が積み重なって、心身の健康にさまざまな影響を与えることを指しています。

睡眠負債が、交通事故や大きな産業事故につながることもあります。例えばスペースシャトルの爆発事故、チョルノービリ(チェルノブイリ)やスリーマイル島の原発事故も、一つの原因として、関わる人の睡眠不足からくる眠気や脳機能の低下が関係していると報告書に書かれています。怖いですよね。日々きちんと寝ていて、今日はたまたま睡眠が足りていないという「睡眠不足」であれば問題はありません。そうではなく、慢性的に足りていないという状態が良くないのです。

実は、日本人の睡眠時間はどんな調査、研究でも必ず常にワースト1位か2位を争うほど短いことで知られています。日本人は寝ずに働くことが美徳、という考えがどうしてもあり、昔は受験でも「四当五落」(4時間睡眠なら合格し、5時間睡眠なら不合格となる)と言われていました。それが科学的に間違っていることは数々の研究で明らかになっています。「七転び八起き」をもじって、「8時間寝ないと合格しないよ」が正しいのです。

睡眠学では、睡眠負債が私たちの健康も含めて、生活にどのような影響を及ぼしているかについて研究を進めています。2020年はコロナ禍のロックダウンなどによって生活が変化する中、そういった社会的な変化が私たちの生活、特に睡眠にどう影響するかを調査・分析しました。世界の研究者と協力し、約40カ国1万人の方にアンケート調査をしたのですが、結果、睡眠は30分くらい延び、かつ生活が規則的になっていました。規則的というのは、普段の忙しい生活では平日の寝不足を休日の寝だめで補うというふうに、平日と休日の睡眠リズムの差が大きいのですが、ロックダウンなどの状況下ではその差が縮まっていました。

この結果から言えるのは、コロナ禍の前の社会では、私たちは無理をして自分の体内時計と合っていない生活をしており、睡眠負債に陥っている状況だったのではないか、ということです。

人の体内には約24時間周期で刻まれる体内時計が備わっていますが、平日と休日の睡眠リズムの差が大きいと体内時計が狂います。毎週毎週、海外渡航で起きる時差ぼけのような状態に陥っていることになるんですね。これは「社会的時差ぼけ」と呼ばれ、睡眠負債と同じく心身の健康に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

私たちは何となく、朝寝坊するよりも早起きしたほうがいいと思っていますよね。でも、自分の体内時計と合っていなければ、社会的時差ぼけの状態に陥ってしまうことがあるのです。コロナ禍では自宅勤務が増え、個人の裁量に任される部分が多くなったため、自分の体内時計に合った時間で生活でき、時差ぼけや睡眠負債の状態が少し緩和されたのだと思います。ですから、コロナ後もオンラインのツールなどをうまく利用して、無理に朝に出社したり睡眠時間を削って活動するという生活を見直していくべきなのではないか。そうすることで、もっと豊かに生きることができると考えています。

年齢で変化する体内時計
大学生は夜型のリズムのピークに

駒田 陽子 教授

体内時計について、もう一つ伝えていきたいと思っているのが、同じ人でも年齢によって適正睡眠時間やリズムが変わることです。小学生くらいですと早寝早起きはできるのですが、思春期に入ると夜型のリズムになっていき、女性で19歳、男性で21歳がそのピークになります。まさに大学生のみなさんが人生で一番夜型になっている時期なんです。そして、その後加齢とともに、だんだん朝型になっていくわけです。なので、大学生には早寝早起きは難しく、無理に朝活する必要はなく、むしろしないほうがいいよとアドバイスしています。

社会的、政策的な立場から見ると、欧米では中学高校の始業時間を早い時間に設定するのはやめようという、始業時刻適正化の動きがあります。アメリカでは州の法律で、高校を8時半始業にしたところ、通学の際の交通事故などが減った、成績が上がった、体調不良やイライラ感が減った、などプラスの効果が出たという報告があります。科学的知識を無視して精神論でいくのではなく、例えば日本の高校でも、朝練や朝の課外活動、礼拝などを無理に入れないほうがよいといったことは伝えていきたいですね。

地球上のほとんどすべての生物の体内には、地球の自転の24時間と同じリズムを刻む時計が備わっており、それは進化の過程の中で必要だったから残ってきたものだと考えられます。私のもう一つの研究テーマである時間生理学はそうしたことを研究する学問ですが、体内のリズムには、例えば月経など1カ月の周期や、渡り鳥や冬眠する動物に見られる1年の周期もあります。

今、注目しているのは1カ月の周期、月の公転の29.5日のリズムです。海洋生物では満潮干潮の周期で産卵が行われるといったことがよく知られていますが、ここ2、3年で人間にもその周期が認められるという論文がいくつか報告されています。私も月経周期と月の位相、かつ睡眠との関係を解析して発表しました。

昔から、満月のときにオオカミ男になるとか精神状態がおかしくなるとか、出産が満月の時に多いといったことが言われていましたが、迷信なのか真実なのかよくわかっていません。神話だと考える研究者が多いのですが、近年、ヒトのリズムが月の周期に同調するという論文が発表され、注目されています。月の周期を感知する体内時計があるかはまだわかっていませんし、メカニズムも不明ですが、月経周期に関連する女性の体調不良や出産に至るまでの受精のリズムなどにも切り込むことができれば、たとえば不妊に悩む人の解決策につながるかもしれません。そんな壮大な夢も描いています。

一つのことにとらわれず、
多様な視点を持つことが世界を広げる

駒田 陽子 教授

私は今、データサイエンスなど理系のアプローチで研究を進めていますが、大学では文学部でした。小さい頃から、眠りに入る無意識になる瞬間をとらえたいと思うなど、人の意識と無意識に興味がありました。それを学ぶには哲学かなと思っていたんですね。大学で学ぶうちに、無意識を研究するためには生理学的な視点で見たほうが真実に迫れるのではないかと思い、心理学や生理学、精神医学も学んでいきました。それでは足りず、外部の研究機関に出向させてもらって、睡眠をテーマにした卒論をまとめました。

私の研究テーマである睡眠学、あるいは時間生物学という学問は、さまざまなアプローチがあることを実感しています。学問的なアプローチだけでなく、さまざまな人が文学や美術・芸術作品にしています。私は芸術作品を見るのも好きで、草間彌生さんの意識と無意識の境界を表現したインスタレーションを見た時には、子どもの頃にこういうことを考えていたなと思い出しました。多様な視点で物事をとらえていくことは非常に大切で、また面白いことだと感じています。

中公新書ラクレの「大学教授コテンパン・ジョーク集」(坂井博通著)の中に、哲学だと思っていたものが実は心理学で、心理学は生理学で、生理学は化学で、化学は物理学で、物理学は数学で、数学は実は哲学だ、みたいな言葉があるのですが、私もさまざまな試行錯誤をして今に至っていますので、本当にその通りだと思います。ですから、若い学生さんたちには、たとえ希望通りの大学、学部に進めなかったとしても、やりたいことを突破口にして次のこと次のことにつなげていけば、いつか自分のやりたいことにつながっていくよと伝えたい。一つのことにとらわれなくてもいいのではないかと思います。

逆に、希望の大学、学部で専門的に学ぶ人たちには、そのことだけじゃなく視点を変えると、より世界が広がるよと伝えています。一つの視点だけだと、うまくいかなかった時にそこで折れてしまいますが、いくつかの視点があれば、一つが折れてしまったとしても、他の視点で日の目を見ることがあります。何より多様な視点で物事をとらえると楽しいし、自分らしさも追求できます。まさに多様性とそれを共鳴させていく、リベラルアーツと重なるのではないでしょうか。枠や限界を超える、自分の枠を外すというのがリベラルアーツの役割かもしれません。

睡眠についてだけでなく、
学生の興味を広げる雑談も大切に

駒田 陽子 教授

東工大では、選択科目の健康科学概論を担当します。健康を作る3つの土台「休養・栄養・運動」のうち、睡眠・休養をどうとればよいのか、といったお話をしていきたいと考えています。睡眠負債を解消しようとして土日に寝だめするというのも、それは体の生体リズムが乱れるからダメなんだよ、とか、睡眠や体内時計のメカニズムについても知ってほしいと思っています。

ただ、それだけではなく、講義では私の研究や実験での失敗談や面白いこぼれ話もたくさん話していきたいです。私自身の学生時代を振り返っても、そういった雑談のほうが心に残っていたりしますから。例えば昨日の授業では、社会的ジェットラグという言葉を作ったドイツの先生との共同研究のため、ミュンヘン大学に行った時のエピソードを話しました。構内を散歩している時に何気なく目に留まったレリーフが、反ナチスの「白バラ抵抗運動」の記念碑だったのです。ナチスへの抵抗を呼びかけるビラを作成し、処刑された女子学生らを描いた映画「白バラの祈り」の映像や、私が撮影した写真を見てもらいながら、当時の出来事を紹介しました。そんなふうに講義から脱線した話が、何か学生さんたちの興味に引っかかり、それぞれのやりたいことに火を付けることができればいいなと思っています。それもまたリベラルアーツかもしれませんね。

あと、学生のみなさんには「会ってみたい人や好きなことを口にしたり、手帳に書いたりしておくと実現することがある」と言い続けています。私はバイオリニストの千住真理子さんのファンで、それを公言していたところ、「睡眠の日」のイベントで千住さんと対談し、生演奏も聴かせていただくことができました。対談相手の人選の際に「そういえば好きだと言ってたよね」と思い出してもらえたんですね。そんなふうに自分の専門とは別のジャンルでも、会いたい人、好きなことをオープンにしていると、思わぬところで叶うことがあるように感じています。最近は村上春樹さんが小説の中でよく睡眠を取り上げていることを思い出し、いつかお話ししてみたいと思ったりしています。みなさんも、会いたい人、好きなことがあれば、オープンにしていくと良いですよ。

人間は徹夜もできるし、照明を調節すれば自分の好きに生活できると考えている人は多いと思います。でも、無理なシフトワークをすると、がんのリスクも高まったりしますし、ショートスリーパーだと豪語している人は、晩年に認知症を発症する可能性も高まります。晩年にアルツハイマー病や認知症を患ったアメリカのレーガン元大統領、イギリスのサッチャー元首相も、激務によるショートスリープが一つには影響しているのではないかと言われています。日々の多忙な生活の中でおろそかにされがちですが、日々の休養・睡眠はとても大切です。学生のみなさんにも、休むことによってより良く生きられることを伝えていきたいと思っています。

Profile

駒田 陽子 教授

研究分野 睡眠学、時間生物学、健康科学

駒田 陽子 教授

早稲田大学第一文学部哲学科心理学専攻卒業、同大学大学院人間科学研究科生命科学専攻修了。博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員、国立精神・神経センター精神保健研究所特別研究員、東京医科大学睡眠学講座准教授、明治薬科大学薬学部准教授などを経て、2022年4月より現職。日本睡眠学会幹事、日本時間生物学会理事、Sleep and Biological Rhytyms Associate Editor。

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