電気電子系 News

2023年度優秀修士論文賞 受賞!― 二谷 時緒さん(小寺研究室)―

物理形成型シリコン量子ビットの高温動作に向けた正孔スピン操作と極低温フリップチップ接続の研究

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2024.04.05

今回、電気電子系166名の中から16名が、優れた修士論文発表を行いこの賞を受賞しました。受賞者にインタビューです。

小寺哲夫准教授(右)、二谷時緒さん(中央)、米田淳特任准教授(左)。<br>奥は実験で用いた希釈冷凍機と測定系。

小寺哲夫准教授(右)、二谷時緒さん(中央)、米田淳特任准教授(左)。
奥は実験で用いた希釈冷凍機と測定系。

この研究はどんな内容で、どのように世の中の役に立つことが期待できるのでしょうか?

私の研究の大きな目的はシリコン量子ビットの高温動作(1 Kほど)です。その大きな目標に向けて物理形成型量子ドットの正孔スピン操作と極低温インタポーザーの利用の検討という観点から研究を行いました。量子コンピュータは古典コンピュータに比べて高速な計算が可能だとされており、次世代型のコンピュータとして期待されています。量子コンピュータを実現するアプローチというのはいくつもあり、そのうちの一つが半導体です。私たちの研究室では半導体に着目し、研究をしてきました。

私たちの研究室では量子コンピュータを実現するためにシリコン中の電荷スピンを利用するスピン量子ビットと呼ばれる方式に着目しています。シリコンを利用することで集積性に優位である反面、他の多くの量子ビットと同様、熱に弱く状態が壊れやすいという側面があります。そのため、これまでこのスピン量子ビットというのは1 K以下の数十 mKという謂わゆる極低温のなかでも希釈冷凍温度と呼ばれるような温度領域まで冷やして、量子ビットとして利用されてきました。

私の研究では物理形成型量子ドットの研究とシリコンインタポーザー上にフリップチップ実装した量子ドットの研究を行いました。どちらも将来的な配線数低減につながることが考えられます。物理形成p型量子ドットではラビ振動と呼ばれるスピンが回転している様子を示すデータを観測することができました。ラビ振動からスピンを操作するためのさまざまな条件がわかり、物理形成型量子ドットで次のステップ(コヒーレンス時間の測定やゲート忠実度)に進むための土台を作ることができました。同時に、私たちのデバイスで高周波で増大するクロストークの存在も確認しました。クロストークはスピン操作に影響を与える可能性があるため、これを低減するためにフリップチップ実装を利用することを考えました。今回の研究ではインタポーザーと呼ばれるシリコン基板に量子ドットチップを実装しました。インタポーザーは室温の半導体分野でつかわれているパッケージング技術で、さまざまな素子を量子ドットと一緒に実装することができ、集積性に優れます。しかしながら、極低温でのインタポーザーの研究というのはあまり進んでいないため、インタポーザー上にフリップチップ実装した量子ドットを測定し、インタポーザーの極低温動作を確認しました。これにより、今後様々な素子を量子ドットと一緒にインタポーザー上に実装したり、複雑な構造のインタポーザーを利用することでシリコン量子ビットの高温動作が期待されます。

私の研究はこれからのシリコン量子ビットの研究への小さな一歩ではありますが、量子コンピュータ実現に向けて少しでも寄与できればと思っております。

受賞の感想

このたびは優秀修士論文賞に選出していただき、大変光栄に思います。これも日頃の先生方のご指導や、研究室の方々や共同研究先の先生方、家族のサポートがあったからこそだと思います。この場で改めて皆様に深く感謝申し上げます。

小寺研究室に学士課程で所属してからの三年間はあっという間に過ぎ去りました。最初の一年目はまだ右も左もわからず、三年を通してやっと少し研究というものを知ることができた気がします。大変で忙しい時もある反面、研究が一歩一歩進んでいくその道のりはとても楽しく充実したものでした。たった三年ではありますが、小寺研究室で学んだこと、経験したことをこれからの人生に活かしていきたいと考えています。

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