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中田伸生研究室―研究室紹介 #10―

金属組織学を究め、最強の鉄鋼材料を創製する

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2016.09.27

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、金属組織学を究め、最強の鉄鋼材料を創製する、中田伸生研究室です。

准教授 中田伸生

金属分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパス・J3棟1521号室
准教授 中田伸生

研究分野 金属 / 鉄鋼 / 金属組織学 / 力学特性
キーワード 鉄鋼材料の組織と力学特性、相変態・折出、強度・延靭性、マルチスケール組織制御、熱力学、速度論、結晶学、転位論、マイクロメカニックス
Webサイト 中田伸生 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

はじめに

図1 東京スカイツリー完成の裏側にも、鉄鋼材料の進歩が隠れています。

図1 東京スカイツリー完成の裏側にも、鉄鋼材料の進歩が隠れています。

私たちの身の回りにはたくさんの金属材料があります。中でも、鉄鋼材料は、自動車、鉄道、大型橋梁や超高層ビルなどの構造物に使用されており、その生産量は金属全体の95% 以上を占めています。もし、この鉄鋼材料を今より少しだけ強く、そして、壊れにくくすることができればどうなるでしょうか?乗り物のスピード・燃費は改善し、建造物の安全性向上とさらなる大型化が進むことで、私たちの生活はもっと豊かになるでしょう(図1)。地味な分野と思われがちですが、その使用量が莫大であるからこそ、社会への波及効果は計りしれません。まさに、“一人の百歩より百人の一歩”を要求されるのが、構造用金属材料の王様である鉄鋼材料の宿命なのです。

研究について

金属材料の性質は、ナノレベルの格子欠陥や不純物元素の存在だけでなく、結晶粒のサイズや第二相の種類・量などミクロスケールな金属組織に依存して大きく変化します。金属組織学者は、金属の特性を最大限に引き出すことを目的に、合金成分を調整し、熱や応力を外部から加えることで金属組織を任意に制御する「金属の料理人」であり、「現代の錬金術師」なのです。当研究室では、構造用金属材料、とくに鉄鋼材料の強靭化を目指し、金属組織の科学を探求します。

研究テーマについて

1. 鉄鋼材料における新たな組織制御技術の探索

ほとんどの金属では、温度や圧力の変化によって固相状態で結晶構造が変化する「固相変態」が起こります。鉄鋼材料では、体心立方格子構造のフェライト(bcc-Fe) と面心立方格子構造のオーステナイト(fcc-Fe) が存在し、鉄鋼材料を加熱すると700~900℃の温度域でフェライトからオーステナイトへの固相変態が生じます。このbcc→fcc 固相変態は高温で生じるため、変態過程では鉄原子が連続的に格子間をジャンプするように拡散し、最終的には結晶性の良いオーステナイトとなります。図2a は、特殊な電子顕微鏡を用いて、固相変態後のオーステナイト結晶粒の方向を示したコンターマップです。各結晶粒の色は均質であり、原子の拡散を伴って生成したオーステナイトは結晶性が良いことがわかります。これに対して、鉄鋼材料を非常に速く加熱した場合、鉄原子が十分に拡散ジャンプできないうちにbcc→fcc固相変態が生じてしまい、結晶性が悪いオーステナイトとなります(図2b)。図2c は、このオーステナイトの内部組織を示す電子顕微鏡写真であり、そこには高密度の格子欠陥を内在した幅0.2μm程度の微細な板状の金属組織が発達していることがわかります。この金属組織に起因して、急速加熱によって生成したオーステナイト(b)は、通常のオーステナイト(a)に比べて80%増の強度を持つようになります。つまり、原子の動きを理解し、加熱速度という外的因子を変えるだけで、鉄鋼材料の特性は飛躍的に向上するのです。

図2 加熱速度の変化によりfcc-Feオーステナイトの金属組織が激変。加熱速度の変化のみでこのような金属組織を得たのは世界で初めて。

図2 加熱速度の変化によりfcc-Feオーステナイトの金属組織が激変。加熱速度の変化のみでこのような金属組織を得たのは世界で初めて。

2. ミクロ-メゾ-マクロに目を向けたマルチスケール組織制御

図3 画像解析を用いて可視化した複相鋼板の不均一変形挙動。観察倍率の違いに注目すると、金属組織に起因して発生したミクロな塑性ひずみが連結し、破壊にいたる様子がわかる。

図3 画像解析を用いて可視化した複相鋼板の不均一変形挙動。観察倍率の違いに注目すると、金属組織に起因して発生したミクロな塑性ひずみが連結し、破壊にいたる様子がわかる。

金属材料を加工すると、塑性変形(外力を除いても、形状が戻らない変形)を伴いながら、最終的な破壊にいたります。加工しやすい金属、壊れにくい金属を造るためには、金属がどのように変形しているのかを理解しなければなりません。当然ながら、ミクロな金属組織はマクロな変形・破壊挙動にも大きな影響を及ぼしますが、金属の変形・破壊現象をコントロールするためには、ミクロに加えて、メゾスケールでの金属組織制御が重要になります。たとえば、自動車用鋼板として広く利用されている複相鋼板は、軟質なフェライト組織と硬質なマルテンサイト組織が混在した金属組織を有しています。複相鋼板を加工すると、軟質なフェライト組織を基点としてミクロな塑性ひずみが材料のいたるところで発生します。しかしながら、マクロな破壊は材料のある一箇所のみで起こります。つまり、変形から破壊へと遷移する過程には、ミクロな塑性ひずみ領域がメゾスケールに連結しなければならないのです(図3)。このような観点から、当研究室では、固相変態を中心としたミクロな金属組織制御に加えて、金属組織の形状や分散状態を考えたメゾスケールな制御にも取り組んでおり、このマルチスケールな組織制御によって鉄鋼材料の強靭化を目指します。

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

准教授 中田伸生
E-mail : nakada.n.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5622

※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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