リベラルアーツ研究教育院 News

栄養、運動、体内時計の観点から、自分がより良く生きるための「健康」を考える

【栄養・運動生理学、時間栄養学、スポーツ栄養学】髙橋 将記 准教授

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2020.06.16

髙橋 将記 准教授

シンガポールで高齢者の健康に関する
国際共同研究プロジェクトに従事

2020年3月、東工大リベラルアーツ研究教育院の教員になりました。担当科目は、健康科学、リベラルアーツのコア学修科目になります。

2017年10月から東工大に着任するまで、私はシンガポールにて早稲田大学重点領域研究機構の研究員として研究活動に従事しました。早稲田大学がシンガポールの研究機関と健康科学プロジェクトを立ち上げたときに、現地の実施代表者として参画したのです。

私自身の研究は、「健康」をキーワードに、栄養や食生活、運動、そして体内時計まで、広く身体に関する課題をテーマにしています。

まずは、シンガポールで取り組んでいた「高齢者の健康問題」についてお話ししましょう。既に高齢化が進む日本ですが、5年ごとの高齢化率の伸びでみるとシンガポールが驚くべきスピードで高齢化が進んでおり、社会問題になっていることがわかります。実際に、2050年には日本と同程度あるいはそれ以上の少子高齢化社会になると予想されています。そこで日本の健康科学研究の知見を生かし、シンガポールで高齢者の健康について調べました。

評価項目としては、体組成、睡眠習慣、栄養・食生活状況、運動実施状況などに加え血糖値や中性脂肪などの血液検査、時計遺伝子発現、腸内細菌叢などの生物学的指標のデータの収集なども行いました。それらのデータを活用し実生活の生活習慣と生活習慣病や加齢性疾患の発症リスクとの関連を検討しています。また日本の既存の調査と比較して、シンガポールに適した高齢化対策ならびに生活習慣病対策を構築することを目的としています。

シンガポールの人々は糖分、脂肪の取り過ぎであるといわれています。お茶やコーヒーなどに大量の砂糖が含まれており、食事も脂肪分が多いので、血液中の血糖値や中性脂肪値が高くなり、糖尿病の罹患率も日本に比べて高いのです。

現在、シンガポール政府はファストフード店へ飲み物の砂糖の使用を抑えるよう指示し、運動・身体活動の意識を高めるような取り組みを進めています。今後、我々の研究成果も取り入れてもらえるように積極的に発信していきたいと思います。

またシンガポールの高齢者がどんな体内時計を持っているかという研究も行いました。体内時計の評価として注目したポイントは3つです。1つめは朝型・夜型(クロノタイプ)について、2つめは社会的時差ぼけ現象について、3つめはヒトの体内時計をコントロールする時計遺伝子発現についてです。

1つめの朝型夜型は、おそらくみなさんも日常的に感じているのではないでしょうか。私は朝型だから夜遅くまでの飲み会はきつい、あるいは夜型だから1限目の授業は厳しいといったところでもしばしば耳にします。

次に、2つめの社会的時差ぼけについて説明しましょう。多くの人々は、平日の月曜から金曜(土日が休日の方の場合)まで、学校や会社という「社会」の活動に合わせて強制的に早起きをして通勤通学をします。寝る時間もある程度固定化されます。それが土日の休日になると、人々は本来の個々人の体内時計に合わせて起床したり、就寝したりするようになります。結果、平日と休日で体内時計に乱れが生じる人が出てくる。すると月曜日の朝につらくなってしまう。これが社会的時差ぼけです。重要なことは、夜型の人あるいは社会的時差ぼけを慢性的に繰り返す人は、糖尿病や肥満になりやすく、運動や仕事のパフォーマンスが低下することも示されています。また子供の場合、学業成績が悪いことと関連するというデータもあります。

3つめは、個々人の体内時計をコントロールする時計遺伝子についての研究です。この時計遺伝子の発現を調べるには、男性の顎鬚の毛包細胞を生物学的に解析し、時計遺伝子の発現量を見る方法があります。顎髭を4時間ごとに引き抜き、時計遺伝子の発現量を比べる。これで生体リズムのピーク時刻がわかります。朝型の人は朝に時計遺伝子発現のピークがあり、夜型の人は夜10時や夕方6時に発現のピークがあります。社会的時差ぼけと時計遺伝子発現の関連があること、高齢者は若齢者と比較して時計遺伝子発現のピーク時刻が早くなることもわかっています。

今後は、これらの体内時計の評価と肥満や糖尿病リスクとの関連を検討し、日本人とシンガポール人の国際比較研究などを進めていければと考えています。

多様性の理解とグローバルな環境への
適応力を高める

シンガポールにて数年間、研究活動に従事したからこそ、東工大の学生の皆さんにはぜひ多様性の理解とグローバルな環境への適応力を高めてもらいたいと思います。シンガポールでの研究プロジェクトは、シンガポール人、マレーシア人、インドネシア人、そして日本人の私が席を並べていました。雑談レベルでもお互いの文化や考え方が全く違うことがよくわかりますし、仕事の進め方もずいぶん違う。

勤勉さや仕事に対する責任感の強さ、勤務時間、提出期限を厳格に守るといった日本人の良さは、外から見ると特殊なことだったりします(海外の方でも勤勉な方や責任感のある方は、もちろんたくさんいます)。私がシンガポールで出会った人たちは時間についてはわりとルーズな一方、考えていることをはっきり言う印象があります。また3、4週間ぽんと休みを取るけど、仕事の引き継ぎはうまくできていないなんてことも多かったですね。結果、こちらの仕事まで止まってしまうこともよくありました。

最初は戸惑いましたが、このやり方は慣れてしまうと風通しがいいし、役割分担がはっきりするし、言いたいことをはっきりいえるし、休みもきちんと取れる。むしろ良い関係を築くことができたと思っています。

またグローバルな環境に適応するといえば、英語が欠かせません。私自身は得意ではないのですが、研究の現場で毎日使っているうちに下手な英語を話すことへのためらいが全くなくなりました。いきなり100%完璧な英語を話すことはできません。下手でいいから、どんどん英語でコミュニケーションを取ることが重要だと思います。東工大にはたくさんの留学生がいると聞いています。日本人の学生はもっと接点を持って、様々な国の方の文化や価値観に触れてください。

東工大生が進む理工系の研究の道は、グローバルな環境が当たり前です。今後、私自身のシンガポールでの経験、多様性についての考え方も、ぜひ学生の皆さんにお伝えできればと思います。

東工大生からの新しいアイデア、
学生同士のインタラクティブに期待

私の大学時代の一般教養科目は、正直いって卒業するために必要な単位という印象しかありませんでした。少なくとも学部時代を思い起しても、リベラルアーツという言葉が印象に残っていることはありません。

しかし大学・大学院を卒業して、さまざまな研究を行い、海外で各国の研究者と仕事を進めていくとリベラルアーツの重要性をひしひしと感じます。とりわけ健康科学、栄養学、スポーツ科学は、人間の幸せや娯楽と直結していますから、その根っこにあるのは理系や文系を超えた総合的な学問の視座です。まさにリベラルアーツが不可欠なのです。

東工大のリベラルアーツ研究教育院の一員として教鞭をふるうのも、研究するのも、いままでとは異なる刺激を受けられそうでわくわくしています。自身の健康科学やスポーツ科学の授業以外にコア学修科目である「東工大立志プロジェクト」や「教養卒論」も担当する予定なので学生たちと早く一緒に学びたいですね。

博士課程で早稲田大学に進学するまでは、国公立大学の学部と修士にて栄養学や運動生理学を学んでいました。修士課程で栄養学と運動生理学の相互作用の重要性に改めて気づき、博士課程で早稲田大学に進んでからは、運動して身体に酸化ストレスが生じたとき、抗酸化サプリメントがどう作用するのかというスポーツ栄養学的なテーマで博士論文を書きました。もともと運動は大好きで小学校から大学までバスケットボール、サッカー、水泳などの競技を経験してきたというのもスポーツと健康を研究テーマに選ぼうとした理由のひとつにあるかもしれません。

また、当時は偏食や野菜嫌いなど栄養・食生活上の問題があったことが、逆に栄養学への興味を駆り立てた部分があります。偏食あるいは野菜が嫌いであるがゆえに、どんな栄養・食生活を取り入れれば健康になったり不健康になったりするのかということに興味がいくようになったんですね。

その後は、冒頭でも述べたように体内時計の働きに注目し、栄養(時間栄養学)あるいは運動(時間運動学)の相互作用についても研究の視座を広げているところです。

シンガポールに赴任するまでは、早稲田大学で健康科学の研究を行う一方、いくつかの大学の非常勤講師として健康・スポーツ、体内時計について教えていました。特に体内時計にかかわる時間栄養学や時間運動学について教える機会が多かったですね。時間栄養学、時間運動学とは何かというと、体内時計と関連づけて食事や運動をどのタイミングでどの時間帯で行えばいいのか、その点に着目した内容です。

いつ何を食べると健康にいいのか、いつどんな運動をすれば筋肉がついたり脂肪が燃えやすかったりするのか。時間栄養学の観点を導入すると、食事の改善によって体内時計を正常に機能させることができたり、機能性食品がより体に効く時間帯がわかったりするようになります。また、時間運動学はスポーツパフォーマンスの向上や生活習慣病の改善に役立てたりすることができます。

東工大では、健康科学、栄養、運動、スポーツ科学、体内時計について教えていく予定ですが、いずれのテーマも学生たち1人ひとりにとってすべて「自分ごと」になるテーマです。授業を通じて、健康であることの重要性、よりよく生きるための術などを一緒に考えていきたいと思っています。とりわけ、健康科学の授業では、学生たちには新しいアイデアを出してほしい。たとえば朝型・夜型問題について考えてもらいたいなと思っています。

日本においては、特に学生に対しては朝型の方が好ましいイメージがありますね。学校に通わなければならないのでそうなってしまうのですが、もともと体内時計が夜型の人にとってはたまったものではない。東工大生にも「本当は夜型の生活をしたい」学生がいるはずです。ならば、夜型を否定するのではなく、夜型ならではのメリットや夜型の人が夜にパフォーマンスできるようになるにはどうすればいいか、朝型と夜型の学生、双方で考えてもらうと建設的な意見やアイデアが出てくる気がします。

一般的に朝型がいいというのは、あくまで疫学的な研究の結果で、細かいことはわかっていません。毎朝学校や会社に通う社会システムが、朝型人間を基準にできていますから、朝型の人がパフォーマンスを出しやすいのはある意味で当たり前なんです。夜型の人の体内時計に適した社会システムがあれば、夜型の人のパフォーマンスはもっと上がるはずです。

現実にはそうなっていないので、夜型の人は生活が乱れやすい。結果、パフォーマンスが落ちるというエビデンスが実際に出始めています。欧米では、看護師さんの勤務体制を朝型の人と夜型の人に合わせて交代させるようにしたケースがあります、朝型の人を朝に、夜型の人を夜に配置すると、どちらのパフォーマンスも良く、仕事中の眠気も感じにくいというデータがあるんですね。

こうしたエビデンスを蓄積することで、誰もが朝に出勤しなければいけない現在の社会システムをもっとフレキシブルなかたちに変えて、社会全体と個々人のパフォーマンスの双方を上げるようにできればいいのではと考えています。

若き東工大生と授業で交わりながら、ユニークなアイデアを生み出すことができればと考えています。

Profile

髙橋 将記 准教授

研究分野 栄養・運動生理学、時間栄養学、スポーツ栄養学

髙橋 将記 准教授

2013年早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程修了。同大学スポーツ科学部助手、同大学理工学術院・研究院助教、同大学重点領域研究機構・早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所研究院講師を経て、2020年3月より現職。偏食や野菜嫌いで、食生活のバランスの重要性がわかれば野菜を食べるようになるのではないかと考えて栄養学を学び、管理栄養士の資格を取得した。小学生からバスケットボール、サッカー、水泳など様々な競技活動を経験し、栄養、運動、体内時計の相互作用と健康・パフォーマンスとの関連についての研究を続けている。

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