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室温で発光する円偏光スピンLEDの創製に成功

多分野への応用が期待される光源の登場

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2017.02.15

要点

  • 室温で純粋な円偏光を発するスピン発光ダイオードの試作に世界で初めて成功
  • 大電流下の発光で円偏光が増幅される現象を発見
  • 生命科学、暗号通信など多分野での活用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の西沢望特任助教、宗片比呂夫教授らは、室温で純粋な円偏光を発するスピン発光ダイオード(スピンLED)を世界に先駆けて創製した。

この新たなスピン[用語1]LEDは、電流が小さいと偏光は起きないが、電流を大きくすると発光強度とともに円偏光の純度が上がる。室温での円偏光発光の壁となっていた半導体と磁性体金属の接合面で起こる非磁性物質の生成反応を抑制したことで達成された。将来的には超小型化や集積化が可能で、これまで考えられなかった、内視鏡に組み込みガン細胞を検出したり、特殊な暗号通信の伝送光に利用するなどへの応用が期待できる。

2017年2月8日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)でオンライン掲載された。

背景

近年様々な種類の光が、理学、工学、医学など様々な分野で利用されている。その中で注目を集めているのが円偏光だ。これは、光の波の振動面(偏光面)がらせん状に右あるいは左方向に回転しながら進む光で、光学活性[用語2]物質の選別、特に合成化学産業の分野で多用されている。ランプやレーザー光を分光器と様々なフィルターに通過させて作製される。しかし、この方法だと光源とフィルターの精密な位置合わせが必要であり、また装置全体の大型化や、円偏光回転向き切替え速度が遅いなどの問題がある。

研究の経緯

これまで円偏光のらせんの回転方向を司る電子の自転軸の向きを全て揃えるための原理開拓と、素子中の半導体と磁性体金属の接合で生じる非磁性物質の生成をなくす作製法の開拓が室温円偏光実現の最大課題と考えられてきた。

今回、宗片研究室で独自開発した“結晶性アルミナ中間層”によって、大電流を流していても接合面での化学変化を抑えこむことに成功した。これによって、大電流下の発光で円偏光が増幅される現象を発見することができた。半導体を用いたスピントロニクス素子を室温で駆動することを疑問視する専門家は多かったが、その疑問を打ち破る成果でもある。

研究成果

室温で純粋な円偏光を発するスピンLEDを世界に先駆けて創製した。このダイオードは、中間層に結晶性アルミナを用いて、電流が小さい時は自然光に近い偏光のない「無偏光」な発光であったものが、電流を大きくして発光強度を上げていくと円偏光の純度がみるみる上昇して純粋な円偏光に達する。この性質から、ダイオード中で発生した強い発光自体に円偏光を増幅する効果があると推定される。

結晶性AlOxトンネルバリア

図1. 結晶性AlOxトンネルバリア

今後の展開

現状で素子中の結晶性アルミナ中間層は大電流通電状態で1週間程度の耐久性しかない。今後は、その品質をさらに向上させるとともに、円偏光を発する超小型レーザーの実現を目指していく。その過程で、今回判明した円偏光が増幅する原理が解き明かされる可能性がある。

地球上のあらゆる生物を構成する分子は光学活性があるので、円偏光を利用すれば、これまで観察困難だった生命活動を詳細に観察できるようになるかもしれない。また、円偏光を使った暗号通信への応用も期待される。

新光源という観点からの展望

図2. 新光源という観点からの展望

円偏光

図3. 円偏光
光の電場成分(黄色)が光の伝搬軸(z軸)の周りを
らせん状に回転する。

直線偏光

図4. 直線偏光
光の電場成分(黄色)が特定の面上を振動する。

用語説明

[用語1] スピン : 粒子が自転している状態を表す用語。原子や分子の世界に当てはめると、電子や原子核、光子(光)が自転しているイメージに相当する。電子の運動が大きく変化して外部に向かって光を発する場合、回転の勢いは光子に移動する。これがらせん回転する光波として観測される。

[用語2] 光学活性 : 光の振動面を回転させる現象のこと。そのような物質を光学活性物質という。左手と右手はどちらか一方の手のひらをひっくり返すと互いに重なるが、ともに下をむけた状態では重ならない。光学活性は、両手と同じように、ひっくり返すと重なるような分子構造を持つ物質に現れる。すべての生体分子は光学活性を示す。

論文情報

掲載誌 : Proceedings of National Academy of Science of United States of America
論文タイトル : Pure circular polarization electroluminescence at room temperature with spin-polarized light-emitting diodes
著者 : Nozomi Nishizawa, Kazuhiro Nishibayashi, and Hiro Munekata
DOI : 10.1073/pnas.1609839114 別窓
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お問い合わせ先

科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
教授 宗片比呂夫

E-mail : munekata.h.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5185

科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
特任助教 西沢望

E-mail : nishizawa.n.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5178 / Fax : 045-924-5185

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