材料系 News

中辻研究室 ―研究室紹介 #62―

金属・半導体表面における表面新物質創製とその電子物性

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2017.09.22

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、電子物性を、原子レベルで解明する研究を進める、中辻研究室です。

准教授 中辻寬

金属分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパス・J1棟411号室
准教授 中辻寬

研究分野 表面・界面物性 / 金属表面物性 / ナノ構造 / 光電子分光
キーワード 金属表面界面電子状態、表面界面構造、低次元電子物性、ナノ構造、表面磁性、光電子分光、放射光、走査トンネル顕微鏡
Webサイト 中辻研究室別窓
中辻寛 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

はじめに

金属や半導体の最表面は、固体内部とは異なる原子配列と電子状態を持っています。また、表面の結晶面方位と、そこに蒸着する物質の組み合わせを適切に選ぶことにより、例えば半導体基板上に単原子層厚さの金属原子を蒸着することにより、単原子層2次元薄膜や1次元原子鎖といった全く新しい低次元ナノ構造と、それに伴う新奇な電子状態を作り出すこともできます。これらは固体内部とは全く異なる電気的・磁気的特性を示す「表面新物質」であり、表面・界面に特有な低次元電子物性や力学的物性の発現の場となっています。私たちは「表面新物質」に特有の原子構造と電子状態を、走査トンネル顕微鏡(STM)と光電子分光法(ARPES,XPS)を用いて実験的に明らかにする研究を進めています。そこで得られた知見に基づき、所望の物性をもつ「表面新物質」を自由自在に作り出せるようになることが目標です。

研究テーマについて

現在進行中の主な研究テーマは以下のとおりです。

1. 金属的低次元電子系の構築とその電子物性評価

2次元あるいは1次元の「表面新物質」においては、量子閉じ込め、パイエルス不安定性による金属絶縁体転移、朝永-ラッティンジャー液体の振舞いなど、低次元系に特有な電子物性の発現が期待されます。現在私たちは、Si(111)、Ge(001)、Ge(111)といった半導体基板上にAu、Ag、Biといった金属元素を1原子層あるいは数原子層分蒸着して金属的低次元電子系を構築し、さらに角度分解光電子分光(ARPES)を用いて価電子帯電子バンド構造を明らかにすることで、これら興味深い物性のメカニズムを電子状態の観点から明らかにしようとしています。

図1に示すのはGe(001)表面上に1原子層分のAuを蒸着して得られた1次元原子鎖構造です。大変きれいな1次元構造であることから金属的1次元電子系を持つことが期待されましたが、実際に電子バンド構造を調べてみると残念ながら、異方的2次元電子系であることがわかりました。「表面新物質」の真の姿を知るには、原子構造と電子状態の両方を明らかにする必要があることを示す好例といえるでしょう。今後はこの原子鎖構造をテンプレートに用いて、異種元素や分子による1次元電子系の構築を目指します。

図1-1 Ge(001)基板上に1原子層分のAuを蒸着して得られた、1.6 nm周期で配列した1次元原子鎖構造のSTM像。
図1-1 Ge(001)基板上に1原子層分のAuを蒸着して得られた、1.6 nm周期で配列した1次元原子鎖構造のSTM像。

図1-2 角度分解光電子分光で調べた等エネルギー面は楕円形で、この系が異方的2次元電子系であることを示す。
図1-2 角度分解光電子分光で調べた等エネルギー面は楕円形で、この系が異方的2次元電子系であることを示す。

図2 Si(111) √3×√3-B基板上に成長したBi(110)超薄膜表面の原子分解能STM像。1つの輝点がBi原子に対応している。

図2 Si(111) √3×√3-B基板上に成長したBi(110)超薄膜表面の原子分解能STM像。1つの輝点がBi原子に対応している。

一方、固体表面では固体内部からの連続性が絶たれている、言い換えれば空間反転対称性が破れているため、特にスピン軌道相互作用の大きい重元素を蒸着すると、たとえ非磁性物質であってもスピン偏極した電子状態が発現します(ラシュバ効果)。この大変興味深い電子状態を調べるため、私たちはBiを数原子層、Si(111)√3×√3-B基板に蒸着し、図2に示すBi(110)超薄膜の原子分解能STM像を得ました。今後はこの超薄膜の電子状態について、スピン偏極も含めて明らかにしていきます。

2. 金属表面上での周期的ナノ構造の構築とその物性評価

Cu(001)基板上に3.5 nm周期で正方配列した単原子層厚さのMnN磁性ナノドット配列のSTM像。

図3 Cu(001)基板上に3.5 nm周期で正方配列した単原子層厚さのMnN磁性ナノドット配列のSTM像。

ナノサイズの構造を固体表面上に周期的に並べる方法のひとつが、 表面のステップ&テラス構造、 あるいは表面における周期的な格子歪みを利用した自己集積化の手法です。 例えば図3のSTM像のように、Cu(001)表面上に3.5 nm周期で正方格子状に配列した単原子層MnN磁性ナノドットを、 自己集積的に成長させることができます。 この自己集積化は、MnNと基板Cuとの格子不整合に伴う歪みエネルギーを緩和するメカニズムによって起こります。 私たちはさらに電子状態と磁性を光電子分光やX線吸収分光で調べ、MnNが反強磁性秩序をもつことを明らかにするなど、 周期的ナノ構造が示す物性を明らかにしようとしています。

おわりに

当研究室は理学院 物理学系 物理学コースの平山博之教授研究室と共同で研究活動を展開しています。所属学生の皆さんも、机を並べて研究室ライフを送ることになります。固体表面・界面の研究は、物理学、化学、電子工学、材料工学など、既存の学問分野をまたぐ、学際的で魅力ある分野です。私たちの研究テーマは物理学の性格が強いですが、実際に研究を進めるうえでは、他分野の知識こそが突破口を開く場面があります。是非、さまざまなバックグラウンドからこの世界に飛び込んで来られることを期待しています。

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

准教授 中辻寛
E-mail : nakatsuji.k.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5619

※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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