材料系 News

西方・多田研究室 ―研究室紹介 #63―

金属材料の環境劣化を科学する

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2017.09.26

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、材料表界面の環境性能評価と高耐食金属材料の開発に取り組む、西方・多田研究室です。

教授 西方篤 准教授 多田英司

金属分野
材料コース
研究室:大岡山キャンパス・南8号館405号室 / 404号室
教授 西方篤 准教授 多田英司

研究分野 電気化学 / 金属学 / 腐食科学 / 表面処理
キーワード 金属電気化学、高温電気化学、環境劣化、腐食防食工学、燃料電池、電極触媒、材料信頼性・健全性評価
Webサイト 西方・多田研究室別窓
西方篤 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
多田英司 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

研究内容

材料の機能には、機械的性質、電気・磁気的特性、光学的特性など様々あります。しかし、すべての材料がそれらの機能性を長期間にわたり発揮するには、使用される環境中における耐久性が極めて重要です。材料の耐久性が劣化する原因の1つに、材料表面や材料と環境の界面でおこる化学、電気化学反応があります。よって、これらの反応機構の詳細を解明し、材料の耐久性劣化を阻止する技術を開発することや、優れた耐環境性を有する材料表界面を創製することが、省資源・省エネルギーといった地球環境保全に役立つといえます。我々の研究室では、電極触媒や構造材料に用いられる金属材料について、表界面で起こる化学、電気化学反応を評価、制御して、使用する環境中において長期間にわたり優れた耐久性を維持できる材料と技術の研究開発をしています。

研究テーマ

1. 固体高分子形燃料電池用材料の耐久性に関する研究

家庭用および自動車用電源として開発が進められている固体高分子形燃料電池(図1 参照。PEFC)は、究極のクリーンエネルギーとして実用化が期待されています。しかし、実用化のためには、電池製造にかかるコストを下げること、さらに電池材料の長寿命化が必要不可欠であります。特に、電極材料の製造コストは、製造コスト全体の約25%も占めるため、安価で、高触媒性、長寿命な電極材料の開発が急務になっています。

我々の研究室では、固体高分子形燃料電池に用いられるPt系電極触媒の腐食劣化機構の解明、電極反応機構の解明、Ptの消費量を抑えたPt代替触媒の開発などの基礎研究を活発に行っています。近年の成果として、電極触媒に用いられるPt、Pt合金の腐食劣化機構の全容解明に成功しております。現在では、Pt代替合金電極触媒や電極/電解質膜界面における電極反応機構の電気化学的検討を行っています。また、PEFCの小型化、量産化にとっては、カーボンセパレータを金属製セパレータにすることが有利であるため、燃料電池環境における金属セパレータの腐食劣化機構についても研究を行っています(図2)。

固体高分子形燃料電池の模式図(左)とコアシェルPt-M合金系電極触媒の模式図(右)

図1 固体高分子形燃料電池の模式図(左)とコアシェルPt-M合金系電極触媒の模式図(右)

固体高分子形燃料電池の電極膜接合体のPt/C触媒層の電子顕微鏡写真(左)とその模式図(右)

図2 固体高分子形燃料電池の電極膜接合体のPt/C触媒層の電子顕微鏡写真(左)とその模式図(右)

2. 金属材料の腐食機構解明

米国の腐食調査機関は、金属材料の防食対策における年間コストがGDPの数%に及んでいることを試算しています。莫大なコストが腐食防食関連費として毎年費やされています。よって、金属材料の高耐食化や腐食抑制は、極めてインパクトの大きな技術となります。しかしながら、様々な金属材料が、様々な環境で使われることによって、予想もしない腐食現象が生じたり、予想を超える速度で腐食劣化が進むことがあります。我々の研究室では、金属材料を様々な環境中で使用したときにおこる腐食現象について、その機構の詳細を主に電気化学的手法によって調査しています。その機構をもとに、耐食性向上の方策を提案することや防食手法の確立を試みております。

腐食劣化した自動車用表面処理鋼板(溶融亜鉛めっき鋼板)の断面観察写真(右側は元素分析結果)

図3 腐食劣化した自動車用表面処理鋼板(溶融亜鉛めっき鋼板)の断面観察写真(右側は元素分析結果)

ギ酸蒸気中で発生した銅の蟻の巣状腐食の断面写真(文字通り、蟻の巣のような特異な局部腐食形態を示す)

図4 ギ酸蒸気中で発生した銅の蟻の巣状腐食の断面写真(文字通り、蟻の巣のような特異な局部腐食形態を示す)

3. 金属材料の環境劣化割れに関する研究

大気腐食環境で304ステンレス鋼に発生した応力腐食割れ

図5 大気腐食環境で304ステンレス鋼に発生した応力腐食割れ

我々の研究室では、鋼構造物の劣化、特に腐食にともなう機械的性質の低下と破壊機構の解明、環境劣化割れ寿命評価に関する研究を行っています。たとえば、高耐食性金属材料の一つであるステンレス鋼は、塩化物イオンを含む大気腐食環境において応力腐食割れを生じることが問題となっています(図5)。このような割れの発生、進展機構の研究を行っています。また、自動車や鋼構造物等の高強度化が図られていますが、高強度鋼はその強度が増すにつれ、腐食等によって発生、侵入した水素によって脆性破壊(遅れ破壊)をおこす危険性が増加するといわれています。そこで、高強度鉄鋼材料の水素脆化劣化を抑制するために、鉄鋼材料への水素発生・侵入機構の解明に関する基礎的研究を行っています。さらに、最近では、鉄鋼材料以外にも、ZrやTaなど耐食性材料の水素脆化機構についての研究も行っています。

4. 電気化学を中心とした腐食劣化、寿命評価手法の開発

いかに優れた耐食性を有する金属材料でも、使用環境中において腐食劣化が避けられません。よって、腐食速度や腐食過程を継続的に監視することは、構造物等の安全と的確な管理において極めて重要となります。また、腐食環境での曝露試験や実験室試験においても、様々な環境に対して腐食反応の変化を追跡することは、新材料の開発や材料選定において有効な研究開発手法となります。我々の研究室では、交流インピーダンス法による腐食モニタリング技術を確立し、その普及に努めてきました。現在、さらにその精度の向上を図るとともに、新たなモニタリング手法を開発すべく基礎研究を行っています。

その他には、材料表面の局所的な電気化学特性を調査するための微小電気化学セル(図7左、ガラスキャピラリ先端の約100 umφでの電気化学測定が可能)やケルビン法(非接触参照電極)など、特殊な電気化学的手法を様々な腐食評価に適用しています。

実暴露腐食環境における鉄鋼材料の交流インピーダンス法による腐食速度のモニタリングの様子

図6 実暴露腐食環境における鉄鋼材料の交流インピーダンス法による腐食速度のモニタリングの様子

特殊な電気化学測定法と測定例:微小電気化学セル(左)と走査型ケルビンプローブによる非接触表面電位測定結果(右)

図7 特殊な電気化学測定法と測定例:微小電気化学セル(左)と走査型ケルビンプローブによる非接触表面電位測定結果(右)

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 西方篤
E-mail : nishikata.a.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3134

准教授 多田英司
E-mail : tada.e.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2296

※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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