材料系 News

須佐・林幸研究室 ―研究室紹介 #50―

人類社会の発展に貢献する革新的鉄鋼生産技術の探索

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2017.02.24

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、人類社会の発展に貢献する革新的鉄鋼生産技術を探索する、須佐・林研究室です。

教授 須佐匡裕 准教授 林幸 助教 渡邊玄 助教 遠藤理恵

金属分野
エネルギーコース・材料コース
研究室:大岡山キャンパス・南8号館312号室/313号室
教授 須佐匡裕 准教授 林幸 助教 渡邊玄 助教 遠藤理恵

研究分野 金属生産工学 / 融体物性 / 材料物理化学
キーワード 金属物理化学、鉄鋼生産プロセス、熱物性測、サーマルマネジメント
Webサイト 須佐・林研究室別窓
須佐匡裕 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
林幸 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
渡邊玄 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
遠藤理恵 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

はじめに

「いい鉄を効率よくつくる」このことを目指して、当研究室では熱力学・熱物性という学問を基調として、環境との調和を保ちながら人類の発展に役立つ鉄鋼生産プロセスを探っています。

高度に発展してきた私たちの生活は、大量のエネルギー消費の上に成り立っています。エネルギー白書によると、産業部門のエネルギー消費は日本の最終エネルギー消費の4割以上を占め、中でも鉄鋼分野は化学分野に次いでエネルギーを大量に消費しています。このことは鉄鋼材料が私たちの生活を支えていることを意味しています。人類はこれまでに大量の鉄を生産してきましたが、全世界的には鉄鋼生産量は増加の一途を辿り、今でも毎年10億トン以上の鉄を生産しています。したがって、エネルギー消費もそれに応じて増えることになります。このようなことを背景に、鉄鋼生産プロセスでは、環境に負荷をかけずに生産量を増やすこと、すなわちプロセスの高効率化が求められています。鉄鋼生産は高温のプロセスであるため熱を自在に操る必要があります。そのため、当研究室では熱力学と熱物性を基礎として上の問題にアプローチしています。

鉄鋼生産プロセスについて

鉄鋼は、図1に示すようなプロセスで製造されています。原料調整から始まり、高炉、溶銑予備処理、転炉、2次精錬と製精錬を行って目的の組成を持つ鋼を作り、連続鋳造によりスラブ、ブルーム、ビレットが製造されます。これらは、熱間圧延工程などを経て、製品となります。いずれの工程においても環境負荷低減は問題であり、様々な取り組みがなされています。

図1 鉄工製造プロセスと須佐・林研究史の研究テーマ(図中の時間は各工程で1 トンの鉄を処理するのに必要な時間を示している)

図1 鉄工製造プロセスと須佐・林研究史の研究テーマ
(図中の時間は各工程で1トンの鉄を処理するのに必要な時間を示している)

研究テーマについて

1.原料調整~溶融スラグの物性値と構造との関係

スラグなどのシリケート融体は、鉄・非鉄精錬で用いられています。近年、鋼には高品質化が求められる反面、鉄鉱石などの原料の品質は低下しています。これらの原料は世界中から輸入されており、産地によって異なる不純物の影響を排除して、安定した操業を行わなくてはなりません。そのためには、溶融シリケートの物性値や構造への不純物の影響を理解しておくことが重要です。私たちは、様々な溶融シリケートの熱力学および物性値データを測定・整備するとともに、構造解析も行い、それらの関係性の解明に取り組んでいます。

2.高炉プロセス~高炉内鉱石還元・溶融挙動の解明

鉄鋼業のCO2排出量割合は日本全体の約14%であり、その大部分は高炉でのコークスの燃焼によるものです。高炉では、鉄鉱石をコークスの燃焼により生成するCOで還元し銑鉄を得ていますが、コークスは還元材であるとともに、原料の加熱源、さらに高温ガスの通気を確保する隙間を作るための構造材の役割も果たしています。私たちは、コークス使用量を下げることにより生じる通気の問題を解決するため、通気の妨げとなる鉱石の反応・溶融挙動に着目し、通気性を損なわない焼結鉱開発のための基礎研究に取り組んでいます。

3.連続鋳造~溶鋼からの抜熱評価とモールドフラックスの開発

図1の( )内の時間は、各工程で鉄あるいは鋼1トンを処理するのに必要な時間を示しています。連続鋳造にはその前の工程よりも時間がかかり、その高速化が全体の生産性向上に重要となることがわかります。

しかしながら、連続鋳造の高速化はそれほど簡単な話ではありません。単に鋼の引抜速度を上げると、冷却速度が速くなりすぎ、鋼の表面が割れてしまいます。割れを防ぐためには、溶鋼と鋳型の間にあるモールドフラックスの組成や構造を制御してその抜熱特性を設計し、高速でも適度な速さで冷却可能なモールドフラックスを開発する必要があります。近年の研究からは、モールドフラックスを結晶化させて鋼の抜熱速度を遅くすることが重要であることが分かっています。このような背景の下、以下のような実験・研究を通してモールドフラックスの開発を行っています。

  • 溶鋼/モールドフラックス/鋳型の間の伝熱モデルの構築
  • 伝熱モデルによる解析に必要なパラメータ(熱伝導率、光学特性)の計測
  • ホットサーモカップル装置の開発とフラックスの結晶化速度の測定

当研究室では、この研究・開発を日本の鉄鋼会社やアメリカの研究者と共同研究として行っています。

4.圧延工程~酸化スケールの役割

鋳造された鋼は圧延工程を経て水冷されます。この冷却速度にムラがあると、鋼の性質が場所によって異なってしまいます。均一冷却のためには、鋼の表面に生成するスケールがキーとなっていて、その熱物性値の測定が喫緊の課題なっています。スケールとはFeO、Fe3O4およびFe2O3から形成される酸化物層で、その全体の厚さは数10~100 μmです。

また、実際のスケール内の温度勾配は15,000 K/mmにも達します。このような条件下における熱物性値の測定は、既存の装置で測定できるものではありません。このために当研究室では、図2に示すように、ブンゼン型氷熱量計の原理を利用して、擬定常ホットプレート法という熱伝導率測定法を世界で初めて開発するとともに、国内の研究機関と協力して、以下のような方法でもスケールの熱物性値の測定を行っています。

  • レーザーフラッシュ法と多層解析による熱拡散率測定
  • ホットストリップ法による熱浸透率測定

さらに、鋼の冷却速度は、核沸騰、膜沸騰という水の沸騰形態に大きく依存することが知られていますが、沸騰形態が何に依存して変化するかは今なお明らかになっていません。当研究室では、スケール付き鋼板の水冷却を模擬できる実験装置を開発して、鋼板冷却に対する影響因子の解明にも取り組んでいます。

図2 擬定常ホットプレート法装置

図2 擬定常ホットプレート法装置

5.物質のマイクロ波加熱と複素誘電率・透磁率測定

高温プロセスでは、現在、化石燃料の燃焼エネルギーを用いており、地球温暖化をもたらす炭酸ガスを多量に排出しています。炭酸ガス排出量を大幅に抑制するには、非化石燃料(原子力、風力、太陽光、核融合等)により発電する電気を加熱源に用いる必要があります。そこで私たちは、電気による加熱源としてマイクロ波に着目しました。マイクロ波は、従来加熱法に比べ、内部加熱、選択加熱、反応促進効果など優れた特性を持っています。私たちは、図3に示す装置を作製して、物質とマイクロ波の相互作用についての研究を行っています。

図3 X線回折装置+シングルモードマイクロ波加熱装置

図3 X線回折装置+シングルモードマイクロ波加熱装置

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 須佐匡裕
E-mail : susa.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3141
准教授 林幸
E-mail : hayashi@mtl.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3586

※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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