材料系 News

若井研究室―研究室紹介 #46―

エンジニアリングセラミックスの構造設計、プロセス、物性

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2017.02.10

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、超高硬度・高靭性から超塑性まで幅広く物性を制御し、画期的な特性をもつセラミックスの創製を目指す、若井研究室です。

教授 若井史博

無機材料分野
材料コース・エネルギーコース
研究室:すずかけ台キャンパス・J1棟612号室
教授 若井史博

研究分野 材料加工・処理 / 無機材料・物性
キーワード ナノ材料、超高硬度・高靭性セラミックス、超塑性、焼結の科学と技術
Webサイト 若井研究室別窓
若井史博 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

研究目的および概要

地球を構成する主要元素であるケイ素、アルミニウムなどの酸化物、窒化物、炭化物であるセラミックスは、硬い、化学的に安定、高温で使用できる、という特長があります。地球温暖化ガスによる温室効果の削減のための高効率発電システム部材、耐摩耗・高温構造部材、マイクロマシンデバイスなど、エネルギー、輸送、製造システムの要素部品として、多様な未来産業の基盤となる材料です。反面、本質的に脆く、巨視的強度はミクロ欠陥に支配されます。安全・安心なシステムの実現に向けて、エンジニアリングセラミックスの脆性の克服と部材の信頼性の確保は挑戦すべき重要な課題です。

脆いセラミックスに室温で延性を付与することは未だ夢ですが、私たちはセラミックスが高温でチューインガムのように巨大に伸びる超塑性という現象を世界で最初に発見しました(図1)。結晶粒の大きさがナノメートルスケールになったナノ材料は通常の多結晶材料の常識を超えた不思議な性質を示します。ナノ材料の背後にはまだまだ未知の物性がたくさん隠されていそうです。私たちは、ナノ・ミクロ構造デザインによって、超高硬度・高靭性から超塑性まで幅広く物性を制御し、画期的な特性をもつセラミックスの創製を目指します。

図1 窒化ケイ素/炭化ケイ素複合材料の超塑性 (Nature 1990)

図1 窒化ケイ素/炭化ケイ素複合材料の超塑性(Nature 1990)

代表的な研究テーマ

セラミックスの脆性の克服と新しい靭性強化機構の探求

砂や岩石の主成分である二酸化ケイ素(SiO2)は、ありふれた物質であり、水晶やガラスとして利用されていますが、脆く、割れやすいという欠点があります。SiO2の高圧相であるスティショバイトは酸化物の中で最も硬さが高いのですが、一般に硬いものは割れやすいという問題がありました(図2)。しかし、ナノ多結晶スティショバイトがセラミックスとして最高の破壊靭性(割れにくさの指標)を持つことが最近発見されました。

図2 硬さと破壊靭性の関係

図2 硬さと破壊靭性の関係

私たちはドイツ電子シンクロトロンと共同で、この高靭性の起源が「破壊誘起アモルファス化」にあることを明らかにしました。さらに、集束イオンビーム(FIB)で加工した微小試験片を用いて、き裂が1 μm以下のわずかな距離をすすむだけで破壊抵抗が急激に増加することを見出しました(図3)。これまでに知られていたセラミックスの靭性強化の仕組みはミクロスケールで働くものでしたが、ナノメートル領域で働く新しいタイプの機構が存在することがわかりました。この技術を応用すれば、他のさまざまなセラミックスにおいても新しい靭性強化機構を見つけることができるようになります。高強度と高靭性を両立したセラミックスの実現に大きく近づくと考えています。

図3 微小試験片によるき裂進展抵抗測定 (Sci.Rep. 2015)

図3 微小試験片によるき裂進展抵抗測定(Sci.Rep. 2015)

焼結の科学と技術の新展開

セラミックス分野は部材産業であり、焼結技術を軸として発展してきました。焼結は成形した粉体を加熱して複雑形状部品を製造する技術です。セラミックス部材の付加価値の源泉は精密な形状と内部構造設計の中に組み込まれた機能にあり、それを効率よく製造する焼結技術には長い時間をかけて蓄積された技術思想が集約されています。

焼結の古典論が完成したのは20世紀半ばですが、近年は連続体力学モデルの導入、コンピューターシミュレーション技術の発達、放射光X線マイクロトモグラフィーによる複雑な3次元気孔構造の観察など、焼結の科学は現在も進歩し続けています。複雑な焼結現象の背後には、ち密化の熱力学的駆動力である「焼結応力」が存在し、その起源は粒子間に作用する力であることがわかってきました。もし力を知り、自在に操ることができるのなら、思いのままに微視的な構造を制御する道が開けるでしょう。このような可能性の探求は始まったばかりで、複雑な焼結現象の理解と制御にはまだ不明な点が多いのです。原理・原則に基づいた新しい発想には大きな未来があります。

May the force be with you!

図4 放射光X線トモグラフィーによる焼結中の気孔構造観察(Acta Mat. 2015)

図4 放射光X線トモグラフィーによる焼結中の気孔構造観察(Acta Mat. 2015)

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 若井史博
E-mail : wakai.f.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5361

※この内容は2016年4月発行の材料系 無機材料分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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