応用化学系 News

巾崎潤子助教が書籍「Dynamics of Glassy, Crystalline and Liquid Ionic Conductors」を出版

イオンのダイナミクスの普遍性を理論、実験、シミュレーションから明らかに

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2016.12.16

出版された「Dynamics of Glassy, Crystalline and Liquid Ionic Conductors」

出版された「Dynamics of Glassy, Crystalline and Liquid Ionic Conductors」

書籍中で扱った種々の系(アルカリケイ酸塩ガラスとその結晶、イオン液体(EMIM-NO3)とそのガラス)についての分子動力学シミュレーションで得られた瞬間構造と解析の例

書籍中で扱った種々の系(アルカリケイ酸塩ガラスとその結晶、イオン液体(EMIM-NO3)とそのガラス)についての分子動力学シミュレーションで得られた瞬間構造と解析の例

ガラス転移の問題が物理学上の重要な未解決問題とされているのはご存じの方も多いかと思います。一方で、イオンのダイナミクスは、Liイオン電池やイオン液体などの応用が進んでおり、その電導機構や拡散挙動も既知のものだと思われがちです。しかし、イオン系は、ガラス転移点近傍の物質と同様の動的不均一性(速い粒子と遅い粒子の共存)や非線形な混合効果などの複雑な挙動を示し、ガラス転移と同じように物理学上の問題を抱えている系なのです。例えば、LiイオンとKイオンが共存するケイ酸塩ガラスなどの系では、ダイナミクスが単一系より何桁も低下する「混合アルカリ効果」が知られており、これはガラスのミステリーと呼ばれています。これらについて数多くのモデルや理論が提出されて、熱い議論が交わされているという状況がその複雑さを物語っています。

このような状況の中で、分子動力学シミュレーションは、両分野の問題の解明に大きく貢献してきています。応用化学系の巾崎潤子助教は、主に分子動力学シミュレーション(MD)を用いて、イオン系の構造やダイナミクスの研究に長年取り組んできましたが、その成果やこの分野の歴史や発展をまとめた書籍「Dynamics of Glassy, Crystalline and Liquid Ionic Conductors」(ハードカバー、及びe-book)がSpringer Internationalから出版されました。この本は、共同研究者でもある C. León 教授、K.L. Ngai教授というこの分野のエキスパートとの共著であり、3人の専門分野を生かして、理論、実験、シミュレーションを広範囲にカバーして紹介しています。膨大な数の実験結果からイオン伝導性のガラスや、イオン液体、イオン性結晶などのダイナミクスにガラス転移と共通の普遍的な挙動があることを明らかにし、その物理について議論しています。

  • 巾崎潤子助教のコメント

長年にわたって、問題を一つずつ解決していくうちにこのような本を上梓することができました。日本の分子動力学シミュレーションの草分けであり、共同研究者でもある上田顯京大名誉教授が分子動力学の解説の章のテクニカルな部分のチェックをしてくださいました。また、東工大の学術国際情報センターのご協力をいただき、分子動力学シミュレーションのプログラムのGPU化の例も載せております。共著者のC. León 教授、K.L. Ngai教授及び、上田教授をはじめとするこれまでの共同研究者の皆様や、研究活動を支援してくださった皆様に深く感謝いたします。分子動力学シミュレーションに興味を持たれた方がおられましたら、オンラインで用意されたプログラムを使ってイオン系の分子動力学シミュレーションを実習できるようになっていますので是非試してみてください。この本がイオンダイナミクスの専門家のみならず、この分野に新しく参入する研究者や学生の教科書や参考書としても役立つことを願っております。

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