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体の深部を探る世界初の近赤外発光基質を開発

生体発光イメージングの感度を飛躍的に高め、創薬研究の推進に貢献

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2016.06.20

要点

  • 発光酵素ホタルルシフェラーゼと反応して近赤外光を産生する基質[用語1]を開発
  • マウス腫瘍モデルを用いた実験で最大40倍検出感度を上げることに成功
  • 疾患の新規治療法や新薬の開発に貢献できる

概要

東京工業大学の口丸高弘助教と近藤科江教授(ライフエンジニアリングコース主担当)らは、電気通信大学の牧昌次郎助教と丹羽治樹教授らと共同で発光酵素ホタルルシフェラーゼ(以下、F-Luc[用語2])の基質の開発を行い、体内深部からの発光シグナルを感度良く観察することができる近赤外光を産生する実用的な基質Aka-HClの開発に世界で初めて成功した。F-Lucを用いた発光イメージングは、世界標準の光イメージング技術で、小動物を用いた創薬研究には不可欠な技術となっている。しかし、自然界に存在するF-Lucの発光基質[用語3]D-ルシフェリン(以下、D-luci[用語4])は、組織透過性が乏しい可視光領域の光を産生するため、これまで体内深部の観察には限界があった。また、これまでに開発された近赤外発光[用語5]を産生する基質は、産生する光が極端に弱かったり、水溶性が乏しく生体に応用できなかったり、F-Lucの変異体にしか反応しなかったりして、実用的ではなかった。今回開発した基質Aka-HClは、水溶性にも優れ、マウスを用いた実験でD-luciよりも最大40倍高い検出感度を示し、近赤外光を産生できる世界初の実用的な基質である。この基質を利用することで、これまでの方法では検出されなかった小さな病変の観察が可能になるため、新規治療法や新薬の開発への貢献が期待できる。本成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループのオンラインジャーナルNature Communicationsに6月14日に掲載された。

研究成果

F-Lucと各基質との発光スペクトル

図1.F-Lucと各基質との発光スペクトル

このたび開発に成功した基質Aka-HClは、水溶性に優れ、毒性も無く、効率よく近赤外光を産生する(図1)。D-luciや、同じく可視光に発光ピークをもつ改良型D-luciのCycLuc1と比較すると、F-Lucと反応して産生する発光の組織透過性の高い事が牛肉スライス(厚さ4 mm, 8 mm)を用いた実験で示された(図2)。

牛肉スライスを用いた組織透過性評価

図2.牛肉スライスを用いた組織透過性評価

マルチウェルプレートにF-Lucと各基質を入れて、その上から図に示した厚みの牛肉スライスを乗せて、牛肉を透過してくる光を上部からイメージング(左)し、透過光の強度を測定した(右)。

さらに、生体内深部の発光シグナルの検出感度を検証するために、検出が特に難しい肺がんモデルマウスを用いてイメージングを行ったところ、他の基質に比べて極めて高い感度で肺がんを検出することができた(図3)。

このように、今回開発した基質は、野生型のF-Lucと反応して近赤外領域の光を産生することができ、現在汎用されている基質と比較しても、組織透過性に優れ、体内深部からのシグナルを感度良く検出することを可能にした。

肺がんの可視化

図3.肺がんの可視化

F-Lucを発現するがん細胞を移植した肺がんモデルマウスに、各基質を図に示した濃度で投与した後、発光イメージングでがん細胞を可視化した。

背景

生体発光イメージングは、小動物を対象に2000年頃から普及し始めた非侵襲的画像技術で、F-Lucとその天然基質であるD-luciとの組み合わせで産生される562 nmにピークをもつ可視領域の光を利用している。生体発光イメージングは、疾患モデルマウスや腫瘍モデルに汎用されており、この組み合わせが、世界標準として、創薬研究や基礎医学研究には不可欠なものとなっている。

しかし、可視領域の光は、体内に多く存在するヘモグロビンやメラニンなどにより吸収されるため、組織透過性に乏しく、非侵襲的な観察には限界があり、より感度の良い発光イメージング技術の開発が望まれていた。近赤外光は、体内で吸収されにくく、組織透過性に優れているため、体の深部にあるシグナルを体外から感度良く観察することを可能にする。そのため、体に傷をつけずに、生体内を観察する次世代の診断技術開発において注目されている。

研究の経緯

D-luciを改変して近赤外光を産生する基質は、これまでも開発されていたが、生体への応用には課題が多く、実用的な基質として使えるものは無かった。その理由は、基質を合成する研究者と生体内での有効性を評価する研究者が共同で開発してこなかった事が大きな要因である。今回我々は、F-Lucと反応して、近赤外領域に発光のピークを示すD-luciの誘導体を電通大で合成し、それらの生体イメージングでの有用性を、F-Lucを発現するがん細胞を移植した腫瘍モデルマウスを用いて、東工大で評価することで、効率よく目的の基質開発に繋げることができた。

今後の展開

今回開発した近赤外光を産生する基質は、既存のF-Lucの遺伝子改変マウス[用語6]や遺伝子導入細胞を用いた実験系に広く応用可能である。これまでよりも高い感度で体内深部の観察を可能にするため、広範な研究分野で、研究の推進に貢献できると期待される。今回開発した基質Aka-HClは、TokeOni (808350-5MG)という名称でSigma-Aldrich (米国ミズーリ州セントルイス市)より販売されている。

用語説明

[用語1] 基質 : 「酵素」と特異的に反応する化合物を「基質」という。ルシフェラーゼが「酵素」で、ルシフェリン、CycLuc1、Aka-HClが「基質」となる化合物。

[用語2] ホタルルシフェラーゼ(F-luc) : 北米産ホタルから単離された酵素で、ATP(アデノシン三リン酸)、マグネシウムイオン存在下で基質であるルシフェリンの酸化反応(発光反応)を触媒する。

[用語3] 発光基質 : 発光酵素と反応して光を産生する化合物

[用語4] D-ルシフェリン : ホタルルシフェラーゼと反応して光を産生する発光基質(化合物)

[用語5] 近赤外発光 : 650 nmより長波長側にピーク波長を有する生物発光。

[用語6] 遺伝子改変マウス : 特定の遺伝子が全身組織細胞もしくは特定の組織細胞に組み込まれている、または、変異導入されているマウス。

研究サポート

この研究は、新学術領域「がん微小環境ネットワークの統合的研究」および、JST・A-STEP(ハイリスク挑戦)の支援を受けて実施した。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
A luciferin analog generating near-infrared bioluminescence achieves highly sensitive deep-tissue imaging
著者 :
Takahiro Kuchimaru, Satoshi Iwano, Masahiro Kiyama, Shun Mitsumata, Tetsuya Kadonosono, Haruki Niwa, Shojiro Maki, Shinae Kizaka-Kondoh
DOI :
生命理工学院

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問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
教授 近藤科江

Email : skondoh@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5800

電気通信大学 大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻 化学生命工学プログラム/
脳科学ライフサポート研究センター
助教 牧昌次郎

Email : s-maki@uec.ac.jp
Tel : 042-443-5493

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